四百六十三話 本人の知らないところで……

「ディックス、大丈夫かディックス!!!!」


袋に入っている大金を見て、そのままぶっ倒れたディックスを心配する同僚たち。


「……なんか、面白いな。スティームのお兄さん」


「いや、ははは……何と言うか、ごめんね?」


「別に頼まれたら造るけどな。そりゃお金は貰うけど」


キャバリオンは、決して高価なモンスターの素材を使わなければ造れない訳ではない。


とはいえ……キャバリオンが欲しい人間など、殆ど見栄を張りたい者たちが殆ど。

中には武闘派の貴族や、お金を持っている騎士に冒険者たちもアラッドに制作を依頼を頼んでいるが……戦闘の際にキャバリオンを使う者は、あまり多くない。


「ふぅ、やっぱり走る時は結構気を付けなきゃいけないね」


ギーラスが一通り天魔の使い心地を体感したところで、夕食タイム。


「王都に行って思ったけど、やっぱりアラッドはモテモテだよね」


「……えっと、いきなりなんですか」


突拍子もない言葉に、アラッドはどう反応すれば良いのか迷う。


「いや~、だって身内や学友……学園が違う生徒たちからもモテモテだったよ」


「???」


本当に意味が解らず、頭を捻って記憶を掘り返す。


(身内ってことは……あっ、そうか。二人とも俺からのプレゼントを喜んでくれたってことだな)


確かにシルフィーとアッシュは兄からのプレゼントを喜んでいた。


(それと……もしかして、ドラングの奴から相変わらず嫌われてるのを、モテモテって表現してるのか? 学友のレイとかが俺にかつのを諦めてないとかならモテモテって表現は解らなくもないけど……)


ある程度考えて、ギーラスが言うモテモテの半分は理解した。

しかし、もう半分が解らない。


「実はね……」


「えぇ~~~~~…………マジ、ですか?」


半分は当たっており、納得。

そのもう半分は……アラッドとしては、あまりモテモテだと表現したくなかった。


「決勝戦で倒した異性に好かれるなんて、まるで物語の主人公だね」


「ギーラス兄さん、マジで勘弁してください」


フィリアス王女が兄に、自分の武勇伝や兄の武勇伝を詳しく聞きに来た、というのは……驚きはしたが、今後自分の身に何かが降りかかるとは思えない。


そして……フローレンス・カルロストの一件を聞き終わり、冷や汗が止まらなくなる。


「はぁ~~~~~……一度、カルロスト家に謝罪に行った方が良いですかね」


「いや、そこまでする必要はないと思うよ。フローレンスさんがどういった道に進むかは、結局のところフローレンスさんが決めることだしね」


「……なぁ、アラッドはそのフローレンスさんって人と、婚約しても良いかもとか思わないのか?」


「ッ!!??」


横から飛んできた訳解らない言葉が耳に入り、吹き出しそうになるアラッド。


「ゲホゲホっ! ……はぁ~。おい、スティーム。いきなりなんて事言うんだよ」


「いや、聞いてる限りだとアラッドが本当に嫌いなタイプには思えなくてさ。それに、二人の立場を考えれば、無理な話でもないでしょ」


公爵家の令嬢と、侯爵家の令息。

スティームの言葉通り、二人の立場を考えれば、決してあり得ない話ではない。


「勘弁してくれ。仮にそういう話になっても、結婚したら俺は向こうに行かなきゃダメだろ」


「ん~~~……そうなるね。アラッドがカルロスト家に婿入りする形になるね」


「それじゃあ、絶対にお断りさせてもらう」


アラッドは頑なに婿入りを拒否。


本人は、老後は絶対に生まれ育った屋敷に戻り、所属する騎士たち日々訓練を行い、いずれ当主になるギーラスの子供たちの面倒を見ながらも、孤児院たちの子供たちの面倒も見る。

そして空いた時間を利用し、趣味のマジックアイテム制作を行う。


既に基本的の老後の生活が決まっている為、婿入りとなればその生活プランが崩壊してしまうのは確定だった。


「大体、婚約とかそういう話になったら、カルロスト公爵家側が許すはずがありませんよ」


何故か自信満々に自分とフローレンスが結ばれる未来はあり得ないと宣言するアラッド。


だが……当然、アラッドが知る由もないのだが、カルロスト公爵家ではその件に関して賛否両論状態。


まず決勝戦でフローレンスを倒した時点で、フローレンスの婿候補にアラッドを上げても良いのではという話が持ち上がった。

しかし、その時点ではアラッドの……あまり貴族の令息らしくない振る舞いを指摘する者が、カルロスト家内部に多かった……しかし、それはここ最近の話。


アラッドが冒険者になってから短期間で功績を打ち立てた影響で、カルロスト家内部で……特に礼儀云々ではなく物理的な戦闘力を重視する者たちの声が強まった。


フローレンスが冒険者の道に進むと決まってしまうと……また話は変わってくるかもしれないが、アラッドが見えないところで、そういう話は着実と進んでいる。


「てか、俺的にはジャン・セイバーさんがこう……俺を標的? にしてるのが結構びっくりですね」


「言っただろ、モテモテだって。まだ理性は残っていそうだったから、アラッドを殺すことを目標に動くことはないと思うけど、いつか決闘を挑まれるのは覚悟しておいた方が良いかもね」


貴族令嬢との婚約云々は勘弁してほしいアラッドだが、そういう話であれば寧ろ歓迎する心構えだった。

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