四百九話 それだけで理解
(ちょ、待て!! 先輩たち気合入り過ぎだろ)
気合があるのはよろしいことではある。
ただ、アラッドは墓荒しのアジトへの突入時、先行して糸を使ってトラップの有無を確認しようと考えていた。
しかし……マジリストン以外の街からやって来た討伐隊の男がアンマーで扉を粉砕すると、なだれ込むように冒険者や騎士たちがアジトに突入。
彼らも暴走している訳ではなく、しっかり斥候タイプの冒険者優先で突入してはいるが……数人の斥候が入ると、後はもう関係無しにどんどん突入していく。
(まぁ、さすがに全てに気配を配るのは無理だ……割り切っていくか)
予定とズレたが、アラッドもクロと共にアジトへ突入。
「ゾンビのモンスターがいるぞ!!!」
「盗んだと思われる人間たちのゾンビもいる!!!」
「情けを、駆けるなよ!!! こいつらに、罪を背負わせるな!!!!」
先頭の者たちから情報が後方に伝えられ、誰かが同士全員に鼓舞を送る。
ゾンビとして復活させられた元人間に、罪を背負わせてはならない。
その言葉は今一度、今回の討伐に参加した者たちのふんどしを締め直した。
死体だったゾンビは、優れたものだと……顔面を殆ど修復している者もあり、仮に……そのゾンビと知人や友人だった者が相対すれば、振るう刃が鈍る可能性は十分あった。
(気力は十分、魔力や体力もまだまだ有り余ってる。メンタルの方は……意識的に振り切ってる、って感じだな)
一人、大勢の戦闘者たちの中で冷静なアラッドは、ゾンビを倒しに掛かる冒険者や騎士たちの様子を把握していた。
彼らの意識的に振り切り、迷いを見せないという戦闘姿勢は、この状況に適した姿勢。
それは間違いないが、万が一が起こる姿勢でもある。
その危険性を直ぐに察したアラッドはまず、クロに自由に動いて良いと伝え、目に届く範囲の戦闘者たちのサポートを行い始めた。
(スレッドチェンジで鉄製の糸に変えて、魔力を纏えば十分いけるな……ただ、ゾンビにしては体の強度が高いな)
ただのゾンビであれば、スレッドチェンジで糸を鉄製に変えずとも、魔力さえ纏えば切断可能。
しかし、アラッドはとっさの判断で糸の性質を変え、体の一部を糸で分断し、各戦場のサポートを行い始めた。
ゾンビであれば体の一部を斬られたところで痛みはなく、動きを継続できるが……手、腕、足を切断されてしまうと、当然行動範囲が狭まる。
地下室はどれだけの労力を費やしたのだと疑問を持つほど広く、あちらこちらで戦闘が繰り広げられている。
ゾンビの数は尋常ではなく、中には盗まれた死体だけではなく、盗賊の死体も混ざっている。
それでも戦闘者たちの数も負けず劣らずであるため、いきなり敵の手足が切れても、誰かがサポートしてくれたのだと思い、誰も手を止めずに戦闘を続ける。
(うんうん、今回の討伐戦に参加するだけあって、ちょっと体勢を崩してしまいさえすれば、あっさり仕留めてくれるな)
非常にサポートのし甲斐があると思っていると、新手の現れた。
「生身の人間だろうが関係ねぇ! やっちまえぇえええええッ!!!!!」
黒幕……ではなく、黒幕と共に研究を行っていた人物たちが戦場に参加。
全員ただのがり勉ではなく、闇の魔法をメインに冒険者、騎士たちを攻撃。
中には死霊魔法を使用し、まだ生き残っているゾンビたちの戦闘力を強化。
(魔法の腕は……参加者たちの魔法使いたちとどっこいどっこいってところか? となると、厄介なのはゾンビへの強化だな)
強化されたゾンビは、アラッドの魔力を纏った鉄製の糸で切断できない個体もあり、サポート方法を変更。
「クロ!!!」
そして相棒に声を掛け、グーサインで首を切るジェスチャーを送る。
「っ、ワゥ!!!!」
クロは主人からの指示をそれだけ理解し、ギアを一段階上げた。
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