四百八話 ある意味変人

「……料理まで完璧に出来るんだな」


「別に完璧って訳じゃない。本職の人たちには負けるけど、まぁそれなりに出来るって程度だ」


そう言いながら素早く包丁を動かし、食材を切り刻んでいく。


そして数十分後、野営地には冒険者や騎士たちの前に……あまり普段と変わらない、野営地の夕食にしては豪華な食事が並んでいた。


「……う、美味い」


「あの子、確か貴族の令息なのよね」


「話には聞いていたが……本当に完全無敵の超人だな、彼は」


「大抵、噂は大なり小なり尾ひれがついてるものだけど、彼はその逆みたいだね」


全てをアラッドが作ったわけではないが、大半の作業に参加していたため、それなりにアラッドの料理力が味に反映されていると言っても過言ではない。


(戦闘では糸? を使ってDランクどころか、Cランクのモンスターを瞬殺してたよな)


(私たちもCランクのモンスターを倒せるけど、あんなに鮮やかに倒せるのは……年に数回あるかないかね)


(そういえば、同じルーキーの連中がアラッド君を森の中に連れ込んだらしいな…………あいつら、なんちゅう命知らずな事をしたんだ)


料理の腕がもはやプロと感じた冒険者たちは、別のプロと感じる部分を思い出し、正真正銘怪物ルーキーが自分たちの前に居るのだと、改めて実感。


なお、貴族に名を連ねる騎士や魔術師たちに関しては、アラッドが携わった料理を食べられることに、感動を覚えていた。


侯爵家の三男であり、高い腕を持ちながら秀でた錬金術師としての実力を持つ、ある意味変人。

元々騎士の道には行かず、冒険者の道を進むと宣言していた……これまたある意味変人。


そんな変人でありながら、騎士の爵位を取る為だけに学園に入学し、あっさりと……とはいかなかったが、見事学生大会の決勝戦で女王の異名を持つフローレンス・カルロストを撃破し、十五歳ながら騎士の爵位を得た。


あまりにも常識から外れ過ぎた行動をし、それでも目的を果たし続ける稀有な存在。

既にプロの世界で現実を体験してきている者たちから見て……アラッドは色んな意味で敬意を持てる存在だった。


勿論、今回の参加者に数人ほど騎士として活動していないアラッドが、騎士の爵位を持っていることに不満を持っていた。

しかし……本日の戦闘行為を見れば、そんな不満は恥ずかしくて口に出せない。


「なぁ、アラッド君。少し良いかな」


「えぇ、なんですか」


騎士の一人は勇気を出し、アラッドに声を掛けて様々な質問をした。


学生大会の決勝戦や、同世代の中でアラッドが思う将来有望な騎士候補や、まだ期間は短いが、冒険者になってからの冒険内容について。


冒険者たちはちょっと特殊な事情があってあまりぐいぐい声を掛けられなかったため、騎士の勇気ある行動には感謝しかなかった。


こうして目的地到着まで、討伐隊は和気あいあいとした雰囲気を保ちながら現場付近に到着。


どの部隊も予定の到着時間に大幅に遅れることはなく到着でき、戦力が欠けることはなかった。


(……移動はしてない、みたいだな)


アラッドは現場付近に到着するまで、ほんの一瞬だけ気配感知を地面に意識を向けて使用していた。


それなりの人数で移動し続け、最終的に現場付近には百人以上の猛者が集結。

普通に考えて、墓荒しの黒幕がこの現状に気付かないわけがない。


これはアラッドだけではなく、各街から派遣された冒険者も定期的に地面の下に気配感知を使用し、調べていた。


そして各街から派遣された部隊の顔が見え、敵の気配察知やトラップ察知に優れた冒険者が的確に地下への入口を見つけ出す。


「壊した方が、手っ取り早そうだな」


斥候に優れた冒険者が罠はないと既に伝えており、鍛えられた大柄な体を持つ冒険者が一歩前に出て……地属性のハンマーを豪快に振り下ろす。


地面が揺れる……とはまた別の音が発生。

狙い通り扉は破壊され、吹き飛んだ扉が地下室の地面に激突。


「お前ら、いくぞっ!!!!!!!」


「「「「「「「「「「うぉおおおおおおおおおお!!!!!!!!!」」」」」」」」」」


既に自分たちの気配が敵にバレているであろうと解っているため、戦闘者たちは全力で雄叫びを上げ、アジトに乗り込んだ

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