四百十話 死ぬならもろとも
戦場に現れた研究者兼魔術師たちは、全員並み以上の腕を持っており、いわくつきのマジックアイテムも装備している。
物理攻撃による防御耐性も持っていたが……それはせいぜい、CランクやBランク冒険者からの攻撃を想定したもの。
「ワゥ!」
「ぬあっ!? ぁ、が……」
クロの……デルドウルフのランクはA。
基本的に戦闘者たちが遭遇する可能性が殆どないSランクモンスターを除けば、トップの最凶最悪のモンスターの位に位置する存在。
そんなクロはアラッドから優先すべき指示を受け取り、本能に従って研究者兼魔術師たちの首を狙って殺していく。
その本能は、討伐に参加した戦闘者たちを救う形となった。
研究者兼魔術師たちは自身の腹回りに自爆用のマジックアイテムを装備しており、もう自分の命を助からないと判断した場合、戦闘者たちを少しでも道連れにするつもりでいた。
「何、がっ!?」
いきなり同士が死ねば、当然そちらに意識が向く。
しかし、何事かと振り向いた瞬間には、振り向いた者の首が刈り取られる。
(魔法の腕は並以上でも、それ以外のことは対処出来ないみたいだな)
アラッドは最後に指示を出した後、クロと別れてマジットたちが向かった方向へと向かう。
(っ……この感覚、初めてだな)
今まで何度も他人から負の感情を向けられてきたことがある。
それでも、生まれ育った環境が環境だったため、その感情に圧されることはまずなかった。
だが……アラッドは生まれて初めて、人が自然に放つ負の感情に気味悪さを感じた。
「ほぅ。この状況で逃げねってことは、金玉はちゃんと付いてるみてぇだな」
「…………」
最奥の空間で待ち構えていたのは、黒一色のコートを身に纏い、怪しい仮面を身につけた……見るからに怪しい男。
とはいえ、周囲には何十体にも強化されたゾンビが待機しているため、金玉が付いてるか否かはやや怪しいところ。
「とりあえず、お前をぶっ殺す前に……なんでこんな事をしてんのか聞いておこうか」
Bランク冒険者の参加者がそう尋ねると、アラッドを除くメンバーから更に殺気や怒気が膨れ上がる。
冒険者ではなく、亡くなった知人や友人の死体を盗まれた関係者には騎士もいるため……この場にアラッドを除く全員が、目の前の男に対して激しい憎悪を抱いている。
「偉大な成果の為には、犠牲が必要だった。ただそれだけだ」
「ほ~~~う……俺が一番嫌いなタイプみてぇだな」
黒幕はただ自身の考えを淡々と述べただけだが、それは戦闘者たちの憎悪の炎に油を注ぐだけ。
「彼ら、彼女たちも偉大な成果の一部となれて、本望な筈だ」
その瞬間、アラッドは味方たちの何かが切れる音が聞こえた。
当然……その言葉が合図となり、戦闘者たちは一斉に攻撃を始めた。
「魂まで消し潰せぇええええええええっ!!!」
「「「「「「「「うぉおおおおおおあああああああああっ!!!!!!」」」」」」」」
「やはり、低能なサルには理解出来ないか」
怒り、負の感情を前面に押し出す戦闘者たちに対し、黒幕の男はいかにもそれらしい言葉を口にする。
(ぶはっ!!?? ほ、本当にそんなこと言うやつ、いるのか……はっはっは!!!!)
その感情を口に出すことはしない。
口に出してしまえば、色んな意味で空間の雰囲気をぶち壊してしまう。
それが良いのか悪いのか分からない……が、とりあえずアラッドは自身の感情に蓋をし、なるべく顔にも表れない様に気を付けながら、ここでも味方たちのサポートに回った。
黒幕の男を守る様に戦うゾンビたちのスペックは、最奥に辿り着くまで立ちふさがったゾンビたちと比べて一回り……もしくは二回りほどスペックに差がある。
最奥まで到達した冒険者たちも精鋭揃いだが、中々圧倒は出来ない……が、そこにアラッドのサポートが加われば、
話は別だった。
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