三百九十二話 確信に変わる一手

(なるべく、あの刃には、当たらない様に、しないとな!!)


闘争心が更に高まっているが、決して警戒心が緩んではいない。


ひりつく戦闘が好物ではあっても、その戦いで死にたいとは思っていない。


「ブラアアアッ!!!」


「っと」


若干上昇した身体能力を冷静に把握し、動き始めるタイミングを速めて回避。


(腐食、か。邪悪なオーラにピッタリの、能力だな!)


効果範囲が正確に解らない以上、紙一重では回避できない。


読みに力を入れ、大げさ気味に避ける。

そして決定的な隙が見つかるまで、斬撃や攻撃魔法でダメージを与えていく。


闘争心が沸騰していても、冷静さを失った訳ではない。

寧ろ頭は先程までよりも冷静になっている……だからこそ、ミノタウロスが持つ戦斧の恐ろしさを今一度確認出来た。


身体能力の向上だけではなく、痛覚の麻痺。

加えて、恐怖心まで麻痺している事もあり、決定打でなければ止まらない。


アラッドが放つ斬撃、攻撃魔法を受けても血を流せど、その流血を気にすることなく突き進み、強烈な一撃を叩きこむ。


「ちっ!!!」


スピードはまだアラッドに分があったものの、ワンテンポでもミノタウロスが有利になれば、完全に戦況がひっくり返る。


回避の選択肢が消された場合、残る選択肢は防御のみ。

何重にもロックウォールを発動し、更に粘着性の糸を岩の壁に巻き付ける。


加えて、別方向の木に指先から糸を放ち、地面を蹴って加速しながら移動。


壁が僅かな時間稼ぎとなり、腐食の影響を食らうことはなかった。

しかし、斬撃の余波で後方の木々と地面にまで腐食の効果が及び、再度その恐ろしさを実感させられる。


(ただの属性なら、まだなんとか出来るが……思ったよりも厄介だな。魔力だけで、なんとかガード出来るか?)


腐食の効果が宿っているのは、戦斧の刃のみ。

それを搔い潜れば決定打を与えることは不可能ではないが、今のミノタウロスの状態では、カウンターをぶち込める可能性が非常に高い。


アラッドにはまだ狂化、マリオネットという切り札がある。

腐食が刃にしか纏われていないこともあり、操ることは不可能ではない。


しかし、それは傲慢にもミノタウロスとの戦闘を楽しみたいアラッドの欲に反する。


「……はぁ~~、そっちの方がまだ良いか」


狂化とマリオネットを使わずに勝つ。

そんな選択肢を取るのであれば……武器を増やすしかない。


アラッドは亜空間から一つの魔剣を取り出した。


「っし、殺るか」


その魔剣を抜けば、もう結果がどうなるか解ったも同然。


同じ戦闘者からみれば傲慢に思われても仕方ないが、何度も実戦で使っているからこそ、抜けば戦闘が終わると確信を持てる。


アラッドが亜空間から取り出した魔剣は、現在ランク五の渦雷。


レイとのデート中に購入した、成長を遂げる非常に珍しい一振り。

珍しさに比例する力を持っており、現在は使い手の身体能力と雷の魔力を使用する際、砲撃の速さや威力を増幅させる。


しかし、アラッドがこの戦いを終わらせることが出来ると思っている要因は、それだけではない。


成長する魔剣は、正確にアラッド自身の武器を見抜いていた。


「ッ!?」


敵が新たな武器を持とうとも、意に介さず怒りに身を任せて戦斧を振り回す。

モンスターの中でも魔力量に優れた存在ではないが、Bランクらしい魔力量を持ち、未だに腐食の効果が失われる気配はない。


あと一歩のところまで追い詰めたこともあり、勝利の二文字が見えかけていたミノタウロス。


だが、戦闘が続けば続くほど……攻撃が当たらなくなる。

戦闘が続く中、ミノタウロスはアラッド限定ではあるが、その動きを読み始めていた。


それにもかかわらず、攻撃は戦闘開始時と同じく余裕で回避され、体に刻まれる斬撃の数は増える。


(やっぱり、こうなるよな)


戦況は本人が予想した通り、アラッドの圧倒へと変わった。

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