三百九十一話 普通に考えてアホ

闇属性の戦斧を持つミノタウロスとの戦闘が始まってから約三分が経過。


マジックアイテムの武器を持つBランクモンスターとの戦闘など、冒険者からすれば最悪との遭遇以外のなにものでもない。


しかし、そんな強敵との戦いにアラッドは非常に楽し気な笑みを浮かべていた。


狂化を使わないという縛りを加えた場合、パワーではややアラッドが押されている。


「ブララァアアアアッ!!!!」


「ぬぁああああっ!!!」


ミノタウロスが斧技、パワーアックスを放つのに対し、アラッドは剣技、バッシュで対抗。


どちらも火力重視の技ではあるが、今回のぶつかり合いはミノタウロスに分があり、アラッドは鍔迫り合いに負け、後方に跳ばされた。


(本当に、良いパワーだっ!!!!)


特異体質のレイ以上の腕力を有しており、斧の扱いに関しては技術力もある。


偶にマジックアイテムの効果として、闇の攻撃魔法も放つ。

放つ際に戦斧による攻撃から切り替わるわざとらしさもないため、アラッドに回避ではなく防御の選択肢を迫らせることもある。


「おらっ!!!!」


「ブ、バっ!?」


しかし、スピードに関してはアラッドの方が一枚上手。


完全に次の一手を読み切り、懐に潜り込んだ瞬間に斬撃をお見舞い。

そして乗った勢いのまま背後に回り、左ストレートを叩きこむ。


結果的に数メートルほど飛んだミノタウロスだが、斬撃と拳打も中に響いていなかったため、即座に起き上がり、反撃に出る。

Bランクということもあり、回復力も並ではない。


(良いぞ、もっとだ!!!!)


目の前の敵との決着を急ぐ必要がない。

故に、アラッドは左ストレートで吹っ飛ばし、地面に膝をつかせたミノタウロスに追撃を行わなかった。


純粋な接近戦の戦闘力だけであれば、先日戦ったオークシャーマンよりも上。

そんな強者との戦闘を……速攻で終わらせるわけがなく、アラッドが飛ばされて背中が木に激突することもあるが、ミノタウロスが数秒の間隙を生んでしまっても、アラッドはそこを攻めなかった。


傲慢な戦い方。

他の同業者が見れば、アホだと言われてもおかしくない。


ただ、強者との戦闘を楽しむ傾向があるアラッドにとっては、少しでもその戦いを続けたい。


「ッ!!!!」


そして当然と言えば当然……そんな振る舞いを何度もされれば、その余裕に気付く。


嘗められている、格下に見られていると気付かないわけがない。

気付けば、後は怒るだけ。


人間の強者であれば、そこで怒りに呑まれず、冷静になるのがベストと判断してもおかしくない。

人には、怒りに呑まれない冷静さがある。


モンスターの中にも極僅かにそういった個体はいるものの、多くのモンスターは怒りを抑えない。


「ん?」


ミノタウロスの体から怒りを放っている。


それに関しては、特別驚くことではない。

ただ、武器の変化には多少驚かずにはいられない。


(あの戦斧、普通のマジックアイテムじゃなかったか)


戦斧を握る手に……腕に、闇が侵食する。

そして刃からは闇ではなく、邪悪なオーラが溢れ出始めた。


「ッ……」


ミノタウロスから……正確には、ミノタウロスが持つ戦斧から放たれるオーラに、クロは即座に反応した。


アラッドが、主人が全力を出せば負けるとは思わない。

しかし、戦斧から溢れ出るオーラに対して、本能的に危機感を感じた。


故に、周囲の警戒を放棄し、戦いに参加した方が良いのかと考え、行動に移そうとしたが……直ぐに無意味な心配だと思い、その場に待機。


クロのヤバいという直感は間違っていない。

モンスターではなく、人間や精霊であっても同じ感覚を持ち、警戒する。


だが、クロの主人であるアラッドの反応は違う。

先程から浮かべていた笑顔が消えることはなく、歓喜の表情は継続中。


闘争心は更に高まり、ロングソードを握る力が強まり……ミノタウロスが吼えると同時に、アラッドも吼えた。

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