三百七十三話 別れる前にその差を
先輩冒険者から恐ろしい情報を教えてもらい、明日にでもゴルドスを離れ、被害が出ている場所に向かうと決めたアラッド。
しかし、一先ずギルドに寄った直後……何故か見覚えがあるルーキーたちに囲まれた。
(最近は絡んでなかった筈なんだけどな。もしかして、このタイミングで追放処分になったギルって奴の復讐か?)
そう思って身構えたアラッドだったが、向けられた視線の種類から、復讐はないなと判断。
確かにルーキーたちの視線には敵意がある。
だが、殺意まではない。
「アラッド、良ければなんだけどよ。こいつらと一回だけ戦ってやってくれねぇか」
「模擬戦を、ですか?」
アラッドが先輩冒険者に内容を確認すると、ルーキーの一人が代表として、硬貨がこすれる音がする袋をアラッドに渡した。
「これで、俺たちと戦って欲しい」
「ふむ…………まぁ、金を払ってくれるなら、別に戦るのは構わない」
袋の中には、予想以上に金額が入っていたため、アラッドは同世代の者たちからの頼みを受けることにした。
白金貨、には届かずとも、金貨の数は五十枚以上。
十人以上いるとはいえ、それほどの金額をルーキーが集めるのは厳しい。
(実は先輩たちがこっそり出してるのかもしれないが、そこは俺の気にする点じゃないな)
約束通り、即座に訓練場に移動。
その間、アラッドは仲介役? となった先輩冒険者に一つ質問をする。
「今回の模擬戦、俺のやりたいようにやっても良いんですか?」
「あぁ、常識の範囲内で、好きなようにやってくれ。あいつらも、自分たちとの差を直に確認出来れば、それで満足な筈だ」
仮に感情を抑えられなくなったとしても、ベテランたちが拳骨を落としてでも止める。
「んじゃ、悔いがねぇように戦えよ」
準備運動を終え、アラッドと対峙するルーキーは抜き身の刃を持つ真剣を構える。
「それじゃ……始め!!!」
「がっ!!??」
模擬戦開始直後、アラッドはそれなりのスピードで駆け出し、一気に距離を詰めて掌底を腹に叩きこんだ。
ルーキーはその速さに対応することが出来ず、宙を飛び……着地に失敗して落ちる。
「次の人」
掌底で吹き飛ばされたルーキーは「まだ終わってない!!!」と言いたげな表情で立ち上がろうとするが、直ぐに立ち上がれず、上がりかけた膝が落ちた。
「ほら、決着だ。後ろに下がっとけ」
「……」
先輩にそう言われ、まだ呼吸が整わない体を無理矢理動かし……一先ず、言われた通り、次の模擬戦の邪魔にならない位置に動く。
「始め!!」
「がっ!!??」
次のルーキーは短剣二刀流の使い手ではあったが、あっさりと自身のクロスレンジに侵入を許し、腹に掌底を食らって吹き飛ぶ。
先程の光景のリプレイが行われ、たった一撃で今度もノックアウト。
(は、腹に力を込めて……じゃない! 次も同じ攻撃をしてくるはずだから、そこにカウンターを叩きこむんだ!!)
単純作業を繰り返すかのように、自分たちとの模擬戦を終わらせていく。
その表情に苛立ちを感じつつも、動きが読めれば、勝機があると判断し、表情に気合が入る次の犠牲者。
「顔に出過ぎだ」
「がっ!? ばっ!!??」
自分の動きを読んだと確信し、絶対にカウンターを叩きこむ! といった表情に関しては、学生の頃に同じ表情を見ていたので、逆に何を考えているのか読めてしまう。
掌底を叩きこむふりをし、背中から叩き下ろすように蹴りを入れてノックアウト。
次の犠牲者たちは選択肢が増え、どちらに対応すべきか迷いが生まれる。
そういった考えこそが既に間違っているのだが、結局全員が一撃でノックアウトされた。
「「「「「「「「あ、ありがとうございました」」」」」」」」
直にアラッドとの実力差を感じたルーキーたちは、先輩たちと約束した通り、模擬戦が終わると全員でアラッドに頭を下げて礼を伝えた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます