三百七十二話 範囲が広すぎる

「一つの街だけではないってなると、中々犯人の居場所を突き止められませんね」


「そうなんだよ。そもそも何処かの街に潜んでるのか、森や街の外の地下に潜んでるのか……まっ、俺は街の外に拠点を持ってると思うけどな」


数か月前から死体の掘り起こしが行われているが、未だに有力情報がつかめないまま。


「んでよ、アラッドの従魔のクロがいれば、仮に拠点が街の外にあるとすれば、短期間のうちに見つけられそうだろ」


「そうですね……クロは嗅覚も優れていますからね」


脚力と持久力に加えて、クロは嗅覚もAランクモンスターに相応しい感知力を持つ。


「でも、狙われてるのは一つの街だけじゃないんですよね。こう……全範囲含めると、どれぐらい広いんですか」


「えっと、だいたいこんな感じだ」


「…………中々、広いですね」


テーブルの上に街の名前などを大体の距離で書かれ、ゴルドスに来る前に色々と調べていたこともあり、おおよその距離……範囲が解かる。


(なるほどな。これだけ距離が広ければ、犯人はそう簡単に捕まえられないか。街中の何処かに居ればまだ数か月もあれば捕まったかもしれないけど、更に街の外まで調べなければならないってなると……うん、普通は無理だな)


普通ではない者が必死に調べても、中々に時間が掛かる捜索範囲。


被害にあった各街の兵士や騎士、滞在している冒険者たち全員が力を合わせれば話は別だが、基本的に一つの事情にそこまで戦力を投入する余裕はない。


一つの事件にそこまで大きな戦力を使ってしまうと、他の問題に戦力を割けなくなってしまう。


「……被害にあっている街には、そこそこ大きなクランもありますよね」


複数の冒険者が集まり、一つの組織となった存在がクラン。

冒険者ギルド以上の組織力を持つ存在……という訳ではないが、規模によっては冒険者ギルドも無視できない力を持つ。


「そうだな。耳に入った情報からして、盗まれた死体に関してはクランにも被害が出てる。でも、その件に関して全力であたれないのは、アラッドも解ってるだろ」


「はい。大きければ大きいクランこそ、他にこなさなければならない仕事が多いでしょうからね」


現状……とにかく戦力が足りないというのがリアルな問題。


被害にあっている街が多く、各街の戦力の一部を集結させて具体的な作戦を練るのも難しい。


「事件の規模的に、とりあえず強い奴とは戦えると思うんだが、どうだ?」


「えぇ、そうですね。そう考えても、強い奴と戦えそうですね」


心の中には当然、楽しみという感情はある。

だが……オークシャーマンと対峙した時と比べて、その感情はあまり大きくはない。


顔には楽しさはなく、薄っすらとした笑みも浮かべていない。


「どうした、あまり楽しそうじゃないな」


「強い奴と戦えるのは嬉しいですけど、その事件……早い内になんとかしておかないと、ヤバそうだなと思って」


「まぁ……どう考えても、黒魔術や死霊術。そこら辺のヤバい技術が関わってるだろうな」


強い敵と戦えるのは望むところ。


しかし、今回の一件……墓荒しが終わると、それはそれで更に最悪な一件が起こることを意味する。

先輩冒険者もそれは解っており、若干表情が暗い。


「そういえば、アラッドは光魔法とか聖魔法とか使えるんか?」


「光魔法は少し使えます。ただ、聖魔法は使えません。最悪な事態を考えると、用意しておいた方が良さそうだな」


「光魔法は使えるんか……なぁ、実は後衛職が本職だったりするんか?」


「……自分で言うのもあれですけど、どのタイプが自分の本職なのか、忘れることがありますね」


メイン武器はロングソード。

しかし、素手での殴り合いも望むところ。


ただ、距離を取った魔法砲撃合戦もでき、自慢の糸を使ったトラップの発動や、近づいて首をスパッと切断するのも可能。


偶に本人が解らなくなるのも、無理はない。

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