三百六十六話 それだけは確実に解かる
変異種のケルピーは、力で三体の同族を従えていた。
先程の声はクロに対抗する気合ではなく、同族たちへ子供のユニコーンを襲い掛からせる合図。
自分と戦っていたユニコーンが、今はいきなり現れた人間に意識が向いていると確信し、合図を出した。
その判断は正しく、確かに成体であるユニコーンはアラッドばかりに意識が向き過ぎていたため、少し前までは気配に気付いていた三体を忘れていた。
ただ……その読みは間違っていなかった。ユニコーンが意識を向けている人間については、考えが回っていなかった。
「浮かべてる笑み通り、狡い手を考えてたな」
「「「っ!?」」」
アラッドは最初から気配を消していたケルピーの存在に勘付いていた。
あそこまで邪悪な笑みを浮かべながら戦う存在が、ただ真正面から獲物を倒すか?
そう考え、子供のユニコーンがその場から逃げ出さないことを確認し、鉄糸によるトラップを設置。
強者に従っても、Cランクモンスターという事実は変わらないため、そのトラップだけでは仕留められない。
それはアラッドも解っており、即座にその場から動く。
二体にスレッドチェンジで生み出した粘糸に魔力を纏い、数秒の間動きを封じる。
まずは一体の首をロングソードで切断し、もう一体も切断。
(ラスト、って……いや、うん。有難いっちゃ有難いか)
最後の一体を仕留めようと地を蹴る前に、一つの雷が粘糸から抜け出せないケルピーに落ちた。
「ど、どうも」
「…………」
ユニコーンを見る目、顔から全く表情が読めない。
「ワゥ!!!」
「おぅ、お疲れ様。こっちも直ぐ終わったよ」
自身の作戦が上手くいき、成体のユニコーンに絶望を与えられたと思っていた変異種ケルピーは……結果的に、自分が絶望しながらクロに首を切断され、ピエロとして命を落とした。
「…………」
「…………」
ユニコーン二体と敵対していた連中との対決は終了した。
しかし、現場は何とも言えない空気。
そんな空気に耐えかね、アラッドは一先ずケルピーたちの死体を回収……したのち、再びそうすれば良いのか、ナイスアイデアが出ず、固まってしまう。
(こ、この状況で殺気を全開にして動きを止めて、角を切断するってのは……だ、駄目だよな)
個人的に、ユニコーンとはいい関係を築きたい。
だが、依頼を受けているため、やはり角が欲しいという思いはある。
中々本題を切り出せないアラッドの考えを察し、成体のユニコーンは自らの意思で、その場に角を根元から落とした。
「えっ」
成体……親であるユニコーンの行動を見ていた子供は、巨狼と一人の人間が自分を助けてくれた事実は解っていたため、親に倣って自身の角を落とし、アラッドに渡した。
「あ、ありがとうございます」
モンスターを相手に、思わず敬語で対応。
「ブルルゥ」
こちらこそ、助かった。
そんな声が返ってきたと感じたと思うと、二体は直ぐにその場から消え去った。
「……と、とりあえず依頼達成、だよな」
「ワゥ!!!」
アラッドはまだ実感がない様子だが、クロは笑顔で喜びながら主人にモフ毛ですりすりした。
一先ず目的を達成したため、ケルピーの解体を行った後、クロの背中に乗って猛ダッシュでゴルドスへ帰還。
時間的にまだ大丈夫だったので、野宿せずに済んだアラッドはホッとしながらギルドへ向かう。
ギルド内に入ると、何度目になるか分からない状況になる。
大勢の冒険者、ギルド職員たちまでもがアラッドに視線を向けていた。
ただ……今回は憐れむような、仕方ないと慰める様な視線が多い。
(……あぁ、そういうことか)
アラッドは何故そういった視線を向けられているのか納得し、数分後の展開に笑みを浮かべながら自分の番を待ち……ついにその時が来た。
「これ、依頼の品です」
そう言いながら亜空間から品を取り出した瞬間、ほぼ全員が目玉が飛び出そうなほど驚いた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます