三百六十五話 残酷な現実

いたぶり、楽しんでいた最中、一体の巨狼が乱入してきた。


己の強さに自信はある。

自信はあるが、それでも乱入者が強いということは一目で解る。


それでも……変異種のケルピーは退かず、まずはクロを仕留めに掛かった。

黒い雷や自慢の角、足を使った打撃も繰り出す。


まずは目の前の敵を潰すことが先決。

それは解っていたが、倒せない。


戦闘が始まって数分後…………もう、頭でも本能でも理解せざるを得ない。


自分は、目の前の巨狼よりも弱い。

頭の中には「何故!?」という単語ばかり。


何故、黒い雷を単純な反応速度だけで躱せるのか。

何故、自分の角による突貫を、脚による打撃を躱せるのか。


頭の中は「何故!?」という単語で埋め尽くされ……その顔からは、完全に邪悪な笑みは消えており、再び浮かんでくることもない。


自分の楽しみを邪魔し、自分の攻撃をことごとく対処する……完全な格上。

そんな格上の相手は、自分を相手に完全に遊んでいる。


モンスター同士であれば、人よりも表情から何を考えてるのか解かる。


本能の理解だけで言えば……対峙した瞬間、解ってしまっていた。

巨狼の自分を見る目は、獲物を見つけた獣の目。


もっと言ってしまうと……遊び相手を見つけた目。

そこまで深くは読み取れずとも、上から目線で見られている事は解ってしまう。


そんな上から目線な巨狼、デルドウルフを相手に、変異種のケルピーは最初こそ果敢に自分の方が強いと示そうとした。


先程まで戦っていた自分と実力が近いユニコーンや、その子供のユニコーンのことなど、頭からすっぽ抜けていた。

この巨狼を倒して、後は即座に退散する。

速攻で目標を切り替えて挑んだ。


クロもアラッドも、そんな部分を見ていなかった。

だが、しっかり見てれば、注視していれば評価する点ではあると思っただろう。


ただ……ランク差というのは、非常に恐ろしい。

勿論、絶対ではない。

その差を覆せる武器はいくらでもある。


人に例えれば、変異種のケルピーも天賦の才に胡坐をかく馬鹿ではない。

それなりの修羅場を潜り抜け、それでもただ、性格の悪さは変わらないだけ。


だが、こう言ってしまうと元も子もない。

それでも、事実として……相手が悪かったとしか言いようがない。


デルドウルフは……クロは、それほどの難敵。

この戦闘の最中だけではどう足掻いても覆らない実力差がある。


なにより、クロの変異種ケルピーを見る目は、戦闘開始時から全く変わっていない。


目の前の敵は、丁度良い遊び相手であり、おもちゃ。

だからこそ、楽しい時間が直ぐに終わらない様に、手加減して戦っている。


その事実が更に負の感情を掻き立てる。


(大体、五分ぐらいは経ったか? そろそろ終わるだろうな)


後ろでユニコーンと対面しながら、ずっと敵ではないというポーズを取り続けるアラッド。


変異種ケルピーの戦闘力は、決して全て把握出来てはいない。

しかし、何度も模擬戦を行ってきたクロだからこそ、絶対に負けるイメージが湧かない。


だからこそ、背を向けていても、安心して待っていられる。


(というか……改めて見ると、筋肉ヤバくないか?)


アラッドのイメージは、ユニコーンとはもっと華奢な体を持つ聖なる馬。


目の前のユニコーンは確かに神聖さを感じさせるが、それと同時に獣が宿す獰猛な圧も感じる。

そしてアラッドの感想通り、脚の筋肉が並ではない。


あの脚で蹴られたら、死んでもおかしくない。

そう思わせる太さと張りがある。


(まっ、ぱっと見それはケルピーの方も同じだったけどな)


そのケルピーも、そろそろクロが倒し終える。


「ブルルラァアアアアアアアっ!!!!」


クロが楽しい戦闘を終わらせようと動いたタイミングで、大声を上げる。


止めを刺す攻撃に対抗する為、気合一閃で相殺しようとした……訳ではなく、直後にユニコーンたちの死角から三体のモンスターが現れた。

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