三百五十四話 絶対に逃がせない
「なっ…………」
あまりにも予想外過ぎる光景に、オークシャーマンは完全に固まってしまった。
知能は高いが、敵の深い部分まで視る観察眼はなく、アラッドの底を完全に把握できていない。
それが敗因でもあるが、初対面で初見殺しの技を見抜けというのは、酷と言えるだろう。
(こいつら……多分、普通じゃないな)
自分に襲い掛かってきた前衛タイプの上位種たちと、後方から遠距離攻撃をかましてきた後衛タイプの上位種。
そのオークたちがナイトやジェネラル、ファイターにメイジなどであることに変わりはない……が、アラッドの記憶にある上位種よりも体が大きく、割と筋肉質な体をしている様に見えた。
(勘違いじゃないよな)
上位種とはいえ、全員体の大きさが同じという事はなく、それぞれ差がある。
とはいえ、そこまで眼に見えて分かるほどの差はない。
転がっている上位種たちも、明らかにただの上位種ではない!!! と判断が付くほどの巨体ではないが、どの上位種も一般的な上位種と比べて体が大きい。
(まともに戦ったら、ちょっと面倒だったかもな)
自身の初見殺しに技に感謝しながらも、残った一対を仕留める為に、歩を進める。
「くっ、ふざけるな!!!!!!」
何が起こって殺されたのか、まだ回答に辿り着いていない。
それでも、同族たちが目の前の人間にころされてしまったことだけは理解出来る。
実際のところはシャーマンが逃走という選択肢を取っていれば、まだ万が一の可能性があったのだが……今のシャーマンには、自分の行いを反省する余裕などなかった。
そんなシャーマンがとった行動は、自身の強化。
自身の魔力……生命力までもを消費することで、体の刺青が広がると同時に、体が膨れ上がる。
結果、約二倍ほど大きくなり、戦闘力はオークジェネラルを超えていた。
「……うん、きしょいな」
巨大化したところで、中途半端な顔と、中途半端な下っ腹は直らず、中二病感満載な刺青が、大学デビューに失敗した陰キャ感を増幅させる。
「まだ言うか! この痴れ者が!!!!」
巨大かと共に変貌した杖を振りかざし、複数の炎槍を展開し、一斉発射。
(短気なのは変わらないけど、実力は本物だな)
詠唱を行う素振りもせず、中級クラスの攻撃魔法を複数展開し、一斉に放つ。
後方でクロに守られているリネアたちはアラッドの身を心配するが、心配の必要は皆無。
風槍を必要な数だけ展開し、相殺。
相殺を確認した瞬間に跳びだし、鋼鉄の剛剣・改で中途半端に太った体をぶった斬ろうとするが、シャーマンは変化した杖で見事ガード。
(腕力も上がってる。もしかしなくても、反応速度も上がってるか)
それではと思い、検証がてらに鉄糸を使って切断を試みるが……皮膚は切れた。
肉も少々切れたが、それ以上は糸が進まない。
「小賢しい!!!!」
自分の体に何をされたのか気付き、筋肉を膨張させて鉄糸を弾き飛ばす。
(切れないことはないけど、予想以上に肉が堅い。防御力も上がっていると考えて良さそうだな)
お返しとばかり近距離攻撃を仕掛けてくるシャーマンの激情を受け流しつつ、冷静に状況を分析するアラッド。
(体を変化させた影響だろうな。治癒力? まで向上してる)
先程鉄糸で傷付けた攻撃は、既に回復済み。
全ての能力が向上し、遠距離だけではなく近距離での攻撃も可能。
アラッドの見立てでは、完全に一般的なオークシャーマンを超え、Bランク相当の実力を有している。
こんな奴がボスであれば、リネアやその護衛たちが負けて囚われても仕方ない。
そう思えてしまう力を持つ特異な個体。
(というか、もしかしてこいつの特殊な力で、他の上位種たちを強化していたのか? 仮にそうだとすれば……絶対にここで仕留めておかないとな)
知能の高さも含め、絶対に逃してはならない。
そこまでの敵だと認定したアラッドの戦意は更に高まり、少なくない圧をシャーマンに与えた。
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