三百五十五話 意外と低い?
「っ、嘗めるな!!!」
一瞬とはいえ、目の前の人間の圧に押された。
その事実によって、更に怒りのボルテージが増す。
打撃性能が高い杖を振り回し、悪くないタイミングで攻撃魔法を放つ。
(戦いは部下に任せるタイプかと思ってたけど、意外とやるな)
同じく詠唱を破棄しながら戦う接近戦タイプなこともあり、どれだけシャーマンの戦闘技量が高いのか解かる。
意外にも部下に任せるタイプではなく、自身も戦闘に加わっていたのだな……と分かったところで、攻撃の手が緩まることはない。
人の言葉を喋り、通常のシャーマンと比べて圧倒的に高い力と魔力を持つ。
加えて、同族を強化する能力を有しているかもしれない、凶悪な個体。
絶対に逃してはならないという思いが更に強まり、攻撃に現れる。
「小細工は通用しないと言っているだろ!!!!!!」
「素直に、チクチクして痛いです、って認めたらどうだ」
魔力を纏った鉄糸で、体を切断することは不可能だった。
しかし、皮と少し肉を切ることは可能。
殺傷効果はあると解り、アラッドは長さが短い鉄糸を大量に展開し、一斉に発射。
杖や魔法で消されてしまう鉄糸が殆どが、一部は迎撃を掻い潜り、シャーマンの体に到達する。
「そんな攻撃、いくら、放ったところで! 効きはしない!!!」
「それはどうかな」
確かに鉄糸一つが刺さったところで、本当に大したダメージにならない。
多少は血が流れるが、直ぐに治ってしまう。
嫌がらせとしては効果的だが、ダメージには期待できない。
「さっさと、死ね!!!!!」
「それは、聞けない願いだな!!」
自分がいれば、また強力な同族たちによる群れをつくれる。
自分さえ生き残れば……この先もなんとかなる。
そう思う部分はあるが、やはり同族を殺されたことに対する怒りや恨みは消えず、少々冷静な判断が出来ないシャーマン。
だが、現在の実力はBランクと同程度。
学生最強の女王であったフローレンス・カルロストを討ち破ったアラッドとはいえ、容易に勝てる相手ではない。
(……まだBランク相当だったと、安心するべきなんだろうな)
パワーアップしたシャーマンがAランク相当の力を手に入れていれば、アラッドは間違いなくクロの力を借りて討伐に臨んでいた。
(使えば直ぐに終わりそうだが……そうやって頼ってばかりだと、成長出来ないよな!!!)
アラッドの切り札である狂化。
数年前、そのスキルを使うことで、トロルの亜種であるBランクモンスターをなんとか倒すことに成功。
格上の敵を倒せる切り札だが、同時にデメリットもある。
そういった点を除いても、アラッドは目の前の強敵を切り札なしで倒したかった。
(私情ではあるが、他のオークは殆ど倒したんだし、それぐらい我儘しても良いよな)
自身の我儘を肯定したことで、表情に薄っすらと笑みが浮かぶ。
「何がおかしい!!!!!」
その小さな変化に気付き、またまた怒りのボルテージが上がり、限界突破しているのでは? と終えるほど顔が赤くなるシャーマン。
緑色の肌に赤みが差し……更にきしょさが増す。
怒りによって一段階攻撃力が増し、空振りした攻撃の影響で、地面や壁に亀裂が走る。
(なぜ、なぜ、なぜ、何故なんだ!!!! なぜ、私の攻撃はあの人間に当らないのだ!!!!!)
冷静さを失っているように見えて、攻撃の正確さは悪くない。
だが、アラッドは全ての攻撃に相殺、防御、回避なので対応し、一度も攻撃を食らっていない。
それはシャーマンも殆ど同じだが……的が大きい攻撃はなんとか対応出来ても、小さな鉄糸による散弾までは防げない。
加えて、アラッドが頭部をメインに狙い始めてから、そこそこの一撃が当たり始めた。
「ぐっ、この!!! 当れ!!!!!」
(……見た目からは想像できないが、もしかしたら精神年齢は何だかんだで十歳以下なのかもな)
そんな事を考えながらも攻撃の手は緩めず、徐々に決着が近づいていた。
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