三百五十二話 不幸中の幸い

おそらくアジトへ侵入しようとする者を見張っているオークナイトの背後に回り、風の攻撃魔法を使用。


その速さにギリギリ気付く前に、太い喉を貫いた。


「よし、幸先良いな」


ささっと死体を亜空間の中に放り込む。


「本当にこんな場所があったんだな」


オークナイトたちが立っていた場所には、オークが余裕で入れるほどの高さを持つ空間があった。


しかも地下に続いているため、広げようと思えば自由に広げられる。


「クロ、人命救助が最優先だ」


「ワゥ!」


「いくぞ!!」


身体強化を使用し、既に武器は抜いた状態で駆け出す。


道中には当然、多くのオークやその上位種がいるが、アラッドとクロは一体も残さず殺した。

殺し方は単純……首の切断。


特殊な個体でもなければ、首を切断されてしまうと、確実にゲームオーバー。


オークたちも侵入者である二人の存在を察知し、迎撃しようとする。

上位種に関してはCランクであり、容易に倒せる相手ではない……のだが、アラッドは普段と違って殺る気満々な状態。


数が多くとも、狂化を使う必要はなかった。

加えて、Cランクのモンスターが何体も……何十体、何百体いたとしても、Aランクモンスターのデルドウルフであるクロに勝てる要素はない。


(問題無い、問題無く倒せるけど……やけに統率が取れているな)


現場には、並外れて指揮能力が高い個体がいる訳ではない。

だが、オークたちは自分の役割を的確に判断し、行動に移す。


二人のスピードが普通ではないので、その効果を発揮できていないが、一般的な冒険者からすれば、不気味さを感じる動き。


「ワウ!!!!」


「そっちか!?」


クロが吠えた方向に向かう。


まだアジト内には強敵と思われる存在を感じる。

正直、こんな時でなければ思う存分……戦闘欲が満たされるまで戦ってみたい。


しかし、乗り込む前にクロに伝えた通り、一番の目的はリネア・ハルークスと、その護衛の救助。

仮に死んでいれば、遺品の回収。


それらが終わってから、完全な殲滅を始める。


「ブモっ!!??」


「っ! 邪魔だ!!!」


とある一室に入ったアラッドとクロ。


その部屋に数個の明かりがあり、奥の方まで見えた。

一番奥には数人の女性たちがいた。


(生きてる!!!!)


生存を確認出来たアラッドは、糸と風の攻撃魔法を駆使し、その部屋にいるオークたちを一瞬で全滅させた。


「リネア・ハルークスさんと、護衛の方たちでよろしいでしょうか」


「あ、あぁ。私がリネア・ハルークス。あなたは……冒険者、か?」


「アラッド・パーシブルと申します。こちらは従魔のクロです」


「「「「っ!!??」」」」


アラッドの名に、護衛の騎士たちも含めて驚きを隠せなかった。


「どうやら、まだ手は出されていないようですね」


「あぁ、その……どういう理由かは分からないが、ここに連れてこられるまで、オークたちの巣に連れてこられてから、一度も襲われていない」


幸運なことだった。

全く持って悲観する内容ではない。


無事に彼女たちは醜い豚に穢されることなく、その身は清純なまま。


この後がどうなれど、一応それは紛れもない事実だった。

だが……オークが目麗しい女性を攫うことに成功し、手を出さない。

その点に関して、疑問を持たずにはいられなかった。


(オークが手を出さない……何でだ?)


頭をフル回転させて考えるが、本当にパッと出てこない。

一先ず檻をぶち壊し、リネアたちの救出に成功。


「その、一体のオークだけ、人の言葉を喋れていた」


「っ!!?? それは、本当ですか」


「あぁ、本当だ」


モンスターが人の言葉を喋る。

それは非常に珍しい現象であり、その現象は……個体の知能が非常に高いことを示す。


巣の中で遭遇したオークたちの動きが、やけに統率されていたことに納得。


そして高知能なオークが何を考えているのか、その考えに辿り着く前に、本命のオークたちが現れた。

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