三百五十一話 まだイメージが湧かない

(しまった、依頼主の元に行って、リネア嬢の匂いをクロに覚えさせれば良かったな)


現在、アラッドはクロの背中に乗ってリネア・ハルークスと護衛数人を捜索中。


既にゴルドスからそれなりに離れて行動している為、一旦戻るのが面倒に感じた。


(まっ、クロの脚なら今日中に見つかるよな)


Aランクの狼系モンスターであるクロの脚力は、同じAランクの冒険者よりも速い。

スタミナに関しては言うまでもないため、それらに頼って探しても問題無い。


(それにしても、本当に誰に襲われて帰ってこないんだ? 何かに襲われて、体力や時間的に街へ戻ってこれなかった……とは思えないな)


ゴルドス周辺は高低差はあれど、森林と比べれば木々の量は遥かに少ない。

そのため、あまり隠れることには適しておらず、モンスターも標的を鼻で追えなくなることは殆どない。


先日の夜に雨が降った訳でもないので、仮にリネアたちがモンスターに襲われていたのであれば……既に生きていない可能性の方が高い。


(仮にモンスターに襲われたのであれば、十以上のCランクモンスター……もしくは、Bランクのモンスターに襲われたのかのどちらかだな)


騎士の地位を得るほどの護衛であれば、Cランク一体に後れを取ることはない。

五体まで数が増えたとしても、騎士が二人とそこそこの腕を持つ魔法使い一人がいれば、モンスターの種類にもよるが、倒せない戦力ではない。


しかし、数がそれ以上増えてしまうと……完全に数の暴力の方が勝る。

上手くいったとしても、護衛対象であるリネアを逃がすのが精一杯。


(……俺の見方が正しければ、Cランクモンスターが十体程、もしくはBランクモンスターに襲われたとしても、リネア嬢一人だけを逃がすことなら出来そうな戦力だが……もしかして、Aランクモンスターにでも襲われたのか?)


仮にAランクモンスターが原因となれば、非常に不味い事態。


まず、ゴルドスに滞在している冒険者たちや、コラスタ・ハルークスが所有する私兵を投入しても、勝てるかかなり怪しい。


ぶつかった結果勝利したとしても、多くの犠牲が出てしまう。


(本当にAランクモンスターが原因なら……情けないが、全力でクロの力に頼ることになるな)


十五歳にしてはあり得ない戦闘力を身に付けているアラッドだが、ソロでAランクモンスターを倒すには、まだ戦力が足りない。


狂化を最大限まで使用し、烈風双覇断を使用しても……確実に勝てる保証はない。

Aランクモンスターの強攻撃でもぶつけられては、半分以上は相殺されてしまう可能性がある。


(烈風双覇断に関しては、まだまだ父さんの猛火双覇断には及ばないしな……まっ、まだまだ訓練と実践あるのみってところか)


己の全てを賭したとしても、身近なAランクモンスターであるクロや、オーアルドラゴンに勝てるイメージが湧かない。


「……ワゥ!」


「ん、どうした? 何か気になる匂いでも感じたか?」


「ワゥ」


「マジか、こりゃラッキーだな」


ゴルドス周辺……といっても、どこまで周辺となるか曖昧なところ。


クロの脚やスタミナは半端ないが、それでももう少し時間が掛かると思っていたアラッドにとって、吉報だった。


「ん? あれは……オーク、じゃないな。オークナイトか」


一定の距離でクロはストップ。

アラッドは背中から降り、オークナイトに見つからないように岩陰に隠れた。


(数は二体。それだけなら俺だけでも問題はない……でも、なんで直立不動で立ってるんだ?)


二体のオークナイトは、まるで何かを守るために見張りをしている様に見える。


(この位置からじゃ、ちゃんと見えないけど……もしかして、盗賊のアジト的な巣があるのか?)


だとすれば、まだリネアやその護衛たちが生きている可能性はある。


可能性はある、が……どちらにしろ、彼女たちにどんな運命が待っているのか、想像出来てしまったアラッドは表情を歪めるも、クロとの突撃を決めた。

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