三百五十話 生きてるか否かは関係無い
「……騒がしいな」
いつも騒がしいギルド内だが、今日は普段と違う空気が流れている。
直ぐにそれを察知し、できれば普段と違う空気の要因を聞きたい……ところだが、気軽に話しかけられる知り合いがいない。
「アラッドじゃないか。今日も依頼を受けるのか?」
「どうも、エリアスさん。そう思ってたんですけど、この空気は何なんですか」
とりあえず依頼を受けることに変わりはないが、いつもと違う要因が気になって仕方ない。
「噂ではあるが、領主の娘が狩りから帰ってこないらしい」
「りょ、領主の娘が、ですか」
まさかの内容に驚くアラッドだが、妹のシルフィーも幼い頃から何度も狩りを行っている為、特に驚く内容ではない。
(シルフィーやレイ嬢以外にも、勇気と実力がある令嬢ががいるもんだ……でも、狩りから帰ってこないのは、親として不安だろうな)
領主であるコラスタ・ハルークスは、娘であるリネアに野宿は許可しておらず、狩りは日帰りが基本。
「帰ってこないとなると……モンスターに殺された、という可能性が一番大きそうですが」
「いや、その可能性は低いだろう。狩りとはいえ、護衛である騎士と魔法使いが三人付いている」
「なるほど。であれば、決めつけることは出来ませんね」
日帰りで帰れるように距離は調整していることもあり、サイクロプスのような強敵と遭遇する可能性は低い。
(モンスターに殺されてないとなれば……可能性としては、盗賊に襲われた、か? 絶対にないとは言えないが、貴族の令嬢を護衛する騎士や魔法使いが合計三人いて、そこら辺の盗賊に攫われるか?)
話を聞く限り、それはそれであり得ないと判断。
「その戦力的に、盗賊に攫われるというのもあり得なそうですし……何が原因なのですかね」
「正直、見当が付かないな。だが、いずれギルドから依頼が来るだろう」
正確には、領主からギルドを通した依頼。
娘が帰ってこないとなれば、当然領主として……父親として焦る。
(捜索依頼、か……生きているかどうか分からないが、必ず出されるだろうな)
生きているか否か、そんな可能性は親であるコラスタ・ハルークスにとっては関係無い。
何が何でも探し出し、助ける。
いかなる時も冷静でいなければならない領主としては、少々熱くなり過ぎていた。
「……祈るしか、ありませんね」
「あぁ……そうだな」
帰ってこない。
それだけで、もう領主の娘は死んでいるかもしれない。
アラッドたちがそう思うのも無理はない。
そして、冒険者たちがこの件についてあれこれ話すも……誰一人として、自発的にリネアと護衛を探しに行く者はいない。
人の心がない?
そういった話ではなく、冒険者とは基本的に依頼を受けて、始めて動く。
気ままにモンスターを狩る冒険者もいるが、それはそれで自由にリスク管理ができる。
(もし、そういう依頼が出されたのであれば、受けよう)
一先ず領主の娘の件は頭の片隅に置いておき、クエストボードへ足を進める。
「注目!!!!!」
「「「「「「「っ!!!???」」」」」」」
次の瞬間、一人の受付嬢がギルド内に響き渡る声を上げた。
「領主であるハルークス様からの依頼です!!!!」
ギルド内にいる冒険者達、全員の意識が受付嬢の方に向く。
発表された内容は、娘であるリネアの捜索。
Dランク以下の冒険者は任意。
それ以上のランクの者には、コラスタから幾つかのパーティーに指名依頼が出されてた。
ただ、例外的にDランクであるアラッドにも前金が支払われる指名依頼が出た。
(また同世代から恨みを買いそうだが……そうも言ってられないよな)
コラスタがアラッドに指名依頼を出した理由は、至極単純。
王都とで行われた大会の内容を知っているから。
クロに関しても詳しくは知らないが、便利な足を持っているということだけは解っている。
特に予定がなかったアラッドは、直ぐにクロと共に街に外に出て、捜索へ向かった。
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