三百四十一話 読めない表情も、興味深い

「うっす」


「それじゃ、行こうか」


翌日、エリアスと合流したアラッドとクロは、ゴルドスの街をゆっくり案内してもらった。


「フローレンス・カルロストとの決勝戦、まだ君には余力があったと見解している人もいるけど、実際はどうなんだい」


その間、エリアスはアラッドに聞きたいことを尋ねていた。

勿論アラッドが侯爵家の三男という情報は忘れていないが、ガチガチに固まり過ぎるのも良くない。


一応冒険者としては先輩でもある為、失礼なことだけは口にしない様に気を付けていた。


「そんなこと考えてる人がいるんですか?」


「彼女の強化が解けた時、君はまだ狂化のスキルを発動していたそうじゃないか」


「完全ではないとはいえ、その場で精霊同化ソウルユナイトを成功させたんですよ。あの時のカルロストさんからは、再度奇跡を起こしそうな雰囲気があったんで」


嘘ではなく、心の底から感じた感覚であり……ある意味、アラッドにとっては恐怖に近かった。


「それに、精霊同化ソウルユナイトが完璧なら、負けていたのは俺の方だったかもしれません」


「……そうか」


まだ若いのに、表情から真意が読み取れない。


そんな歳不相応な対応ができるアラッドに、更に興味を持った。


二人は会話が途切れることなく、楽し気な様子。

実際、エリアスとアラッドもデート? を楽しんでいた。


そして武器屋、マジックアイテムを売っている店、その他の店への案内も終わり、二人で夕食を食べた後……アラッドが酒を呑めるのを確認し、バーへと向かった。


「ふふ、意外と呑めるみたいだな」


「一応、それなりに呑める方だと思います」


興味を持った相手が自分と同じく、それなりに酒が呑めるとなれば、思わず頬が緩んでしまうもの。


「それは嬉しいな。ところで、アラッドはパーティーを組むつもりはないのかい」


一応……一応尋ねた。

強者なのは解っているが、それでも仲間は従魔だけ。


パーティー構成としては、あまり安定はしてない。


「そうですね。今のところ誰かと組もうとは考えていません」


普通なら、ここで先輩としてパーティーを組むメリットなどを説くべき場面。


エリアスもつい酒の勢いもあって、先輩風ふかせてしまいそうになった。


(っと、危ない危ない)


嫌な先輩にはなりたくないと思い、慌てて口を閉じた。


「……ちょっと心配だけど、アラッドなら大丈夫そうだね」


「先輩からそう言われると嬉しいですね」


そんなこんなで二時間ほどカクテルを呑みながら話し込み、その日は解散。


ちなみに、二人がバーで呑みながら話している間、クロは休憩中のバーテンダーに特製料理を貰い、もふもふされていた。


「うし!! 今日も頑張っていきますか!!!」


少々遅い時間まで酒を呑んでいたが、二日酔いにはならず、翌日には元気にギルドへ向かう。


「ん?」


冒険者ギルドの中に入ると、自分に多くの視線が飛んできた。


(俺、何かやった……やったか? 記憶にないんだが…………そういう事、なのか?)


今まで多くの多種多様な視線を向けられてきたこともあり、今自分にどういった視線を向けられているのかに気付く。


向けられている視線の種類は、嫉妬。


今回はDランク以上の冒険者からも、ちらほらと嫉妬の視線が向けられている。


「おいお前!!!!」


「お前は、この前の」


以前自分に絡んで来たルーキー。


そのルーキーの額には、大量の青筋が浮かんでいた。


(大丈夫か? 今にも血管が切れそうなんだが)


自分がダル絡みされているにも関わらず、相手の心配をする余裕があるアラッド。


「色々言いたい事があるが……一言に纏めてやる」


「……」


「俺と戦え!!!!」


「嫌だよ」


即答…………スピード重視のシーフや武道家もビックリの速さで、アラッドは青筋ピキピキルーキーの要望を断った。

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