三百四十話 気付く不自然さ

「へぇ~、サイクロプスか」


一つ目の巨人。

その体から繰り出される一撃を地面を揺らし、クレーターをつくる。


ランクはCと、一般的には脅威となるモンスター。

そんなモンスターを相手に、女性剣士は一人で戦い続けていた。


表情に濃い疲労は見られず、戦況はやや女性剣士が有利。


(凄いな……歳は十八か十九ってところか? それぐらいで、サイクロプスを相手に一人であそこまで戦えるのか……)


まだまだ冒険者歴が浅いアラッドは、目の前の女性剣士がいったい誰なのか分からない。

しかし、サイクロプスとの戦闘光景から、ただ者ではないという事だけは解る。


(でも、あっさりと勝負は終らないか)


スピードでは女性剣士が上回っているが、パワーはサイクロプスの方が上。


そのパワーで武器である棍棒を振り下ろせば、地面が大きく凹む。

ただでさえ、この辺りはあまり足場が良くないこともあり、いちいち凹まされると、冒険者側としては非常に動き辛くなる。


(順当に行けば女性剣士さんが勝ちそうだけど、全然万が一がありそうだな)


凶悪なパワーによる攻撃を食らえば、一気に形勢が逆転する。

加えて、足場が徐々に悪くなってきている。


「あっ」


次の瞬間、女性剣士が足を滑らせ、転倒。

その隙を逃さず、サイクロプスは今日一の動きで渾身の一撃を振り下ろす。


しかし……その一撃は女性剣士に届くことはなく、斜めに倒れ込む。


「ッ!!!」


千載一遇のチャンスを逃すまいと、こちらも今日一の動きでサイクロプスの首を切断。

首の半分を切断されてしまい、そこから立ち上がることなく、永遠の眠りについた。


「……助けてくれたのは、君かな」


「差し出がましかったかもしれませんが、危ないと思ったので」


サイクロプスは自分が生み出したクレーターに足を滑らせたのではなく、アラッドの糸によって転んだ。


サイクロプスが自分が生み出した環境での戦いに慣れていることは、知識として頭に入っている。

そんなサイクロプスが不自然に転んだのだから、不思議に思わない方がおかしい。


「いや、あの状況では必ず抜け出せたとは限らない。君の助けがあったからこそ、無事にサイクロプスを倒すことが出来た。礼を言うよ」


青髪のショートカットに、クールな見た目。


まだ彼女のことを良く知らないアラッドだが、一瞬貴族の令嬢かと思ってしまった。


しかし、互いに自己紹介をしたところで、一応彼女が……エリアスが貴族の令嬢ではないと解った。


「君があのアラッドだったのか」


「あのって言うと、大会での情報ですか?」


「あぁ、そうだ。言い方が良くないのは解っているが、聖女対狂戦士と冒険者の間でも話題だ」


「……そ、そうですか」


解っていた。

狂化のスキルを使えば、そういった印象を持たれてしまうと解っていたが、いざ話を耳にすると、やや心に来るものがある。


「あの大会後、冒険者になったという噂は本当だったのだな」


「はい。元から冒険者になるのが目標だったんで」


「しかし、騎士の爵位は授与されたのだろう」


「えぇ、一応形だけは騎士ですね」


中身が伴っていない騎士。

それに関しては、他人からどうこう思われても仕方ないと割り切っている。


(噂通り、面白い青年だな)


二人は会話しながら解体を続け、エリアスは助けてもらった礼に、サイクロプスの魔石を渡した。


アラッドは大したことはしてないと返却しようとしたが、頑なに断られたため、渋々受け取り、亜空間に放り込んだ。


その後、二人は一緒にゴルドスへと向かった。


偶々遭遇した冒険者と街に向かう。

エリアスもゴルドスを拠点としているので、問題という問題は一つもない。


ただ……これから起こる問題に関しては、アラッドも予想出来ていなかった。


ギルドに戻った二人は依頼達成の報告、素材の買取を行う。

その後、ギルドを出たエリアスはアラッドを夕食に誘った。


そして食事の場で、翌日二人で街を散策しないかと提案された。

まだゴルドスの全てを知らないアラッドにとって、これも断る理由がない提案だった。

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