三百三十四話 殺れる証明

「はい、こちらがアラッドさんのギルドカードになります」


「ありがとうございます」


自身のギルドカードを受け取り、小さく笑みを浮かべるアラッド。

これで……ようやく目標のスタートラインに立てた。

まだ何かを成し遂げた訳ではないが、嬉しくて少々ニヤけが止まらない。


ただ…………ギルドカードに表記されている一点に、眼が止まった。


(これ、本当に良いのか?)


疑問を解消したいため、受付嬢に問う。


「すいません、これって本当にこれで良いんですか?」


「は、はい。そうですね。ギルドの規則というか特典というか……とにかく、問題はありません」


アラッドが気になった部分とは、所有者のランクを示す部分。

その部分には、Dランクと記されていた。


Dランクは、ようやくルーキーがケツの殻が取れ、ようやく上がれるステージ。

普通は数年かけて……優秀なルーキーであれば、一年程度で辿り着くことはある。


だが、アラッドはいきなりそのステージに立った。

圧倒的に普通ではないことを考えれば、そのステージからスタートすることは、なんら不思議ではない。

寧ろアラッドをそれなりに知っている者たちからすれば、当たり前も当たり前。


アラッドも……この話、ルールは知っていた。

知っていたが、本当にそうなるのかは半信半疑だった。


「そうですか……分かりました」


一番下から、それなりの日々を過ごしながら上がる。

そんな楽しみ方も悪くないと思っていたが、これはこれで悪くない。


一つ懸念があるが、気にしていたらスタート地点から前に進めない。


「よぅ、兄ちゃん。あんた、騎士なんだってな」


テンプレ……そう思えなくもない人物がアラッドに声を掛けた。


「騎士というか、騎士の爵位を持ってるだけですよ」


「ふ~~~ん?」


アラッドの言葉に、いまいち要領を得ない。

ただ、先輩として一つ確認しておきたい部分があった。


「まっ、そこら辺の事情は知らねぇけどよ……お前、ちゃんと殺せるのか」


そう言うと、ルーキーに向ければちびってしまうような圧を放つ。


騎士の爵位を持っている者が、何故Dランクからスタート出来るのか……理由としては、元騎士であればDランクに昇格できる基準、人殺しをクリアしてるのが一般常識だから。


しかし、目の前の少年はぱっと見、それをクリアしてるようには見えない。


冒険者になったのであれば、いずれ他の冒険者と組んで依頼を受けることがあるだろう。

その時……仮初のランクが、同業者を殺す場合がないと言えない。


(面倒な人じゃなくて、他の同業者を気遣える人なんだな)


アラッドは自分に話しかけてきた先輩の評価を改め、殺れるという力強さを証明した。


「えぇ、勿論」


「っ!!!???」


「先輩たちみたいに何度も経験がある訳ではありませんが、貴族なので狙われる機会が少なくなかったんですよ」


「そ、そうか」


アラッドは先輩が信用出来るだけの殺気を……その先輩だけに向けた。


(このガキ、どんな経験積んできてんだ!?)


ベテランが思わず身震いしてしまう程、その殺気は複数の意味で洗練されていた。


「……ったく。とんでもねぇ騎士がいたもんだ」


「ただ爵位を持ってるだけですよ」


「それもそれで謎なんだけどよ……まっ、いいや。邪魔したな」


「いえ、信用を得られて良かったです」


良い笑みでそう返し、クロが待つ外に向かう。


対して、男は仲間たちと呑んでいた席へと戻った。


「なんだ、意外に戦れそうなルーキーだったのか?」


「戦れるどころの話じゃねぇ。一気に酔いが覚めちまった。おい、一杯くれ」


併設されている酒場の従業員に頼み、先程まで呑んでいたエールを再度注文。

一気に半分近くまで飲み干すが……酔える気がしなかった。


「お前ら、下手にあのガキに絡もうとすんなよ。あいつは、間違いなく殺る時は殺れる側の人間だ」


仲間の言葉から冗談は感じられず……男のパーティーメンバーたちは、無意識に出入り口に目を向けていた。

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