三百三十三話 一歩先からスタート
数日間、実家で体を動かしながらも、のんびり過ごしていたアラッド。
その間……ガルシアたちには、今後の事について伝えていた。
冒険者として、同行するのはクロのみ。
ガルシアたちは奴隷としての立場を解放する。
ただ、アラッドは深く頭を下げた。
もし……良ければ、このまま家で働いて欲しいと。
冒険者として同行させない以上、奴隷としての立場からは開放すべきと判断。
ただ、子供のために、できれば残って欲しかった。
そんなアラッドの頼みを聞き、ガルシアは頭を上げてくれと伝える。
「俺は残ります。たった数年間で、アラッド様への恩が返せたとは思っていません」
ガルシア以外も、大なり小なり理由は違えど、同じ考えだった。
ここから出ていくつもりはない。
それが全員の総意だと解り……アラッドの目から数滴の涙が零れた。
その後、孤児院の子供たちや両親、従者たちとの挨拶も済ませた翌日……アラッドはクロと一緒に決めていた目的地へと向かう。
「数か月に一回でも良いから、手紙を書いてほしい」
「分かりました」
最後の挨拶を済ませ、アラッドはクロと共に……ゴルドスという街へ向かった。
冒険者になろうと、夢見る少年少女たちが向かう街、ではない。
最低でも、冒険者として数年ほど経験を積んだ者が向かう街。
言わば、ケツの殻が取れたルーキーから、中堅の中でも上位に位置する者たちが集まる街、それがゴルドス。
ハッキリ言って、ルーキーには優しくない街。
普通に考えれば、もっとルーキーに環境やその他諸々が優しい街から冒険者人生をスタートするべきなのだが……アラッドは文字通り、普通ではない。
(いや~、改めて思うけど、本当に速いよな)
現在の移動速度も、一般人からすれば普通ではない。
クロの背中に乗ったアラッドは前方を風魔法で調整しながら、一般人が目で追えない速度で移動中。
普通の冒険者であれば、移動は徒歩か……馬車で移動という手段もある。
だが、クロという従魔を持つアラッドの移動速度は、そこら辺の者たちとは比べ物にならない。
クロ自身、スタミナがモンスターらしく無限大なため、走るだけであれば何時間でも持続可能。
そんな頭おかしい速度で移動し続けた結果、アラッドとクロは昼飯時には目的の街、ゴルドスに到着した。
「これから冒険者登録をします」
「そうか。それなら兄ちゃん、そっちの従魔にはこいつを身に付けといてくれ」
「分かりました」
こいつは従魔です。という証明となる首飾りを渡され、クロに装着。
現在体を縮めている為、一般人が見てもそこまでビビらない……が、特徴的な一本角はそのままなため、冒険者や兵士、騎士であればその雰囲気に気付く。
「ここか」
検問をしていた兵士に教えてもらった通りの道を歩き、冒険者ギルドに到着。
「クロ、少し待っててくれ」
「わぅ」
その場で大人しく座ったことを確認し、中へ入るアラッド。
(中は噂ほど汚くはないが……酒の匂いがちょっときついかな)
大体の冒険者ギルドには、酒場が併設されている。
その知識は既に持っていたが、鼻に入ってきたアルコール臭は、予想よりも少々強かった。
「冒険者になりたいんで、登録をお願いします」
「かしこまりました」
渡された書類に記入を行い、書き終えると騎士という立場を証明するバッチを見せた。
「っ!!!!???? き、騎士の方でしたか」
「「「「「っ!?」」」」」
受付嬢の言葉に、ギルド内に残っていた冒険者たちが即座に反応。
受付嬢は鑑定系のスキルを有しているため、目の前の物が偽物かどうか判断出来る。
とはいえ……目の前の青年は長身で、風格はそれらしくはあるが、歳はまだ十五。
受付嬢もバッチが本物であると解っても、用紙に書かれている年齢を考えると……即座に受け入れられなかった。
それでもキッチリ仕事を果たすため、手続きを進める。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます