三百三十一話 特例をつくれる立場
「終わりました」
「うむ、そのようだな」
アラッドが騎士の爵位を授与される。
そのことに反感を持つ騎士たちは、全員四肢の骨を砕かれ、手痛い敗北を味わうことになった。
「はっはっは! 流石だぜ!!」
「ですね」
この結果に、二人の騎士団長は非常に満足だった。
もしかしたら、心が完全に折れて騎士を辞めてしまうかもしれない?
そんなメンタル豆腐野郎には、騎士など務まらない。
二人からすれば、全然辞めてもらって結構だった。
ただ……改めてアラッドの戦いっぷりを観て、正式に騎士として騎士団に入団してくれないのが、果てしなく悔しい。
悔しいが、アラッドの今まで積み重ねてきた努力などを考えれば、これ以上考え直せ、などとは言えない。
「なぁ、俺ら騎士団長が訊くのは変だって解ってるけど、ちょっと訊かせてもらうぜ」
「はい。なんでしょうか」
「騎士として、一番大事な部分はなんだと思う」
「なにがなんでも、民を守れる力。相手を倒す力。そこに、小奇麗部分は必要ないかと」
「はっはっは!!! そうだな、そうだよな! そんな事意識してちゃ、守れるもんだって守れやしねぇ」
騎士団長の一人を満足させる回答をしたアラッドに、嫉妬の視線を向ける騎士たちだが……目の前で行われた会話が、自分たちに足りない部分。
そう突き付けられた……直ぐに納得出来ずとも、彼らは納得しなければ前に進めない。
「では、戻るとしよう」
爵位を授与しようとしてた部屋に戻り、改めてアラッドに騎士の爵位が授与された。
「何かあった時は、依頼させてらうぜ!」
「えぇ、是非ともお願いしたいですね」
「はは、ありがとうございます。ただ、ランクがある程度上がるまで、指名依頼は出来ないと思いますよ」
よっぽどの特例でなければ、特定の冒険者を指名依頼するのは、ある程度のランクまで上がらなければ出来ない。
しかし、アラッドは二人に対する認識が甘かった。
彼らの立場を持ってすれば、その特例をつくることは難しくない。
その日の夜、アラッドはレイたちと合流し、とあるレストランでテーブルを囲んでいた。
「アラッドならって思ってたけど、本当に半年も経たずに卒業するとはな」
アラッドのみが特例として卒業する為、卒業式などは行われず、卒業証書を学園長から貰うだけの簡単な形式。
そのため、その簡易卒業式は明日行われる。
それが終われば……もう、アラッドが王都に残る理由はなくなる。
なので、今夜がレイたちと一緒に過ごせる最後の日。
「何かしら大きな手札は隠してるんだろうとは思ってたけど、まさか狂化だったとわね」
「びっくりしたか?」
「当然。でも、長時間その状態で意識を失わなかったのは、本当に凄いと思ってる」
狂化状態のアラッドを見て……怖いという印象はなかった。
何故なら、アラッドという人間が、どういう人間なのかを知っているから。
「いや、実際のところはかなりヤバかった。あそこでフローレンス・カルロストが降参を宣言してくれたから良かったが……そもそも、
不完全でも脅威な技。
絶妙な隙と、圧倒的な判断速度によって生まれたチャンス。
それがなければ、自分は負けていた。
そんな謙虚な態度を見て……レイは、自分が追う背中はまだまだ遠いと感じた。
「てかよ、パーティーの中盤から終わりまでずっと喋ってたよな。もしかして、そういう状況だったんか?」
そういう状況……という言葉が、いったい何を指しているのか、アラッドは直ぐに察し、口をへの字に曲げた。
「そんな訳ないだろ。適当に会話してただけだ。てか、何で戻ってきてくれなかったんだよ」
「いや~、それはなぁ……」
今回はアラッドに敗れはしたが、それでも女王の異名に相応しい実力を持つ女傑。
そんな人物に、リオたちが遠慮してしまうのは無理もなかった。
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