三百三十話 淡々と破壊が続く

騎士たちとの試合が始まってから数十秒後……訓練場に、悲鳴が響き渡る。


「次」


騎士との試合を終えたアラッドは、淡々とした表情で告げた。

アラッドはいったい、騎士に何をしたか?


答えは……騎士団長たちに言われた通り、四肢の破壊。

勿論、消し飛ばしてはいない。


王城に属する治癒師であれば、吹き飛んだ腕や脚の治療も不可能ではないが、魔力を大きく消費してしまう。


なので、言われた通り骨をバキバキに折るだけで済ませる。


「次」


二人目の騎士が、先程の騎士と同様に潰された。


たった数十秒程度ではあるが、しっかりとと見ていた。

どう戦うかは見ていたが……理解できたかどうかは別。


「次」


三人目の騎士が潰された。


目の前で行われた二試合。

目に焼き付けた筈だが、結果はその二試合は同じく、四肢の骨を思いっきり砕かれ、戦闘不能に追い込まれた。


アラッドが主に、ロングソードと体術を使って戦っている……ように見える。

実際は違うが、騎士たちにはそう見えた。


「次」


四人目も、前三人と同じ結果になった。

何かがあると判断し、魔力感知を使い……ようやく透明な糸の存在に気付いた。


気付いたところで、何も出来ない。

考えるには、あまりにも時間が短かった。


「次」


五人目にもなると、先程までの闘争心、妬み、否定などの感情が薄れていき、恐怖心が生まれ始めた。


四人目が残った連中にアラッドの手札を伝えた。

それで不可解な倒され方に納得がいった。

同時に、騎士らしくないという感情が湧き上がるが、この戦いはそれを否定する為の試合。


超えなければ、行う意味がない。


ただ……完全にアラッドのエンジンがかかり始め、試合時間はどんどん短くなる。


「次」


六人目は深く考えず、ただただ全力をぶつけようとした。

攻撃の種、回避方法などを深く考えず、ただ渾身の一撃をぶちかます。


悪くない選択ではあったが、そういう相手こそ、糸との相性が悪くなる。

結局は攻撃を掠らせることなく、転がっている騎士と同様に、四肢を破壊。


「次」


七人目は……もう、対峙する前から恐怖心が顔に浮かんでいた。


アラッドが騎士に相応しい云々かんぬんなど、もうどうでもいい。

潰された騎士の中には、同じ団に属する先輩もいた。

そんな先輩が、まだ学生に……一年生に負けた。


逃げ出したいとすら思ったが、逃げる訳には行かない。

何故なら、この試合は自分たちの我儘から生まれたもの。

しかも、国王陛下が見ている前でそんな事をすれば、クビになるかもしれない。


四肢の骨が砕かれ、襲い掛かる激痛と、クビになるかもしれない二つの恐怖に抗った。


「次」


八人目……淡々と作業をこなすかのように騎士たちを潰すアラッドに、もう恐怖しか感じない。


何故そこまで動けるのか。

どうして現役騎士より速く動ける? その奇妙なスキルはなんなんだ?

吐き出したいことが山ほどあるが、この場は自分の信念をぶつけて証明する場。


泣き言を吐き出して良い場所ではない。


それが本能的に解っていることもあり……泣き言を口に出すことはなかったが、本当は全力ダッシュで涙とか鼻水とか気にせず逃げたかった。


「次」


九人目の騎士はようやくアラッドとフローレンス・カルロストとの試合を思い出し、糸対策が出来る技術もあった。


状況を五分に持ち込めることが出来た……という気持ちが油断に繋がる。

それだけで五分に持ち込めるのであれば、あの試合……勝っていたのは、間違いなくフローレンス。


ロングソード、体術、魔力。

そこに新たな武器を持ちこむ余裕がある。


「……あんたら、モーナさんより弱いな」


自分が騎士になることに対して反感を持つ現役騎士たちを、全て文字通り潰したアラッド。


その後、口から零れた言葉は……女性騎士より弱いという感想。


敗れた者たちの中に、今すぐにでも殴り掛かりたい衝動に駆れる者がいたが……敗者には出せる言葉も拳もなかった。



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申し訳ありません、一話ズレました。

この一話前に、三百二十九話を投稿し直しました。

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