三百二十二話 大乱戦の果てに

光の人型精霊、ウィリスとアラッドの相棒、クロが試合に参加したことで、戦いは更に激化。


まさかのフローレンスが精霊を召喚し、その次にアラッドが従魔を呼び寄せた。

クロ……デルドウルフは、見た目だけで完全に強者だと、観客たちに解らせる。


一瞬、完全にひっくり返ったと思われた戦況が、直ぐに戻った。


アラッドとウィリスがぶつかることもあれば、フローレンスとクロがぶつかる。

二対二の状況になったかと思えば、アラッドがクロの背中に乗り、人獣一体でリングを駆けまわる。


(チっ!! あと、あと数手だ。何手か有利に運べば終わらせられるのに……クソ!!)


危機回避能力に関しては、フローレンスも劣っていない。

本当に不味い攻撃は完全に回避しており……それはアラッドも同じなため、未だに両者は致命的な攻撃は受けていない。


試合はまだまだ長引くのか。

そう思う観客たちもいるが、本人たちはもって数分と考えている。


少々後手に回っているフローレンスとウィリスは、一分も経てば立っていられないかもしれない。

そんな自身の状況は把握しつつも、絶対に負けたくないという気持ちで溢れていた。


(私だって、負けられない!!!!!)


アラッドには、自分を否定したいという思いがあると感じ取った。


思い、考え方は人それぞれ。

その思いを否定するつもりはない。


それでも、自分の信念を潰されるつもりはなく、女王としてのプライドも相まって、フローレンスの体に変化が訪れた。


『フローレンスっ!!!』


「えぇっ!!!!」


ウィリスの呼びかけで、自分に何を伝えたいのか解った。

二人はアラッドとクロに残り少ない魔力で最大の牽制を行い、一か所に集まった。


「っ!!!!」


二人の行動に対し、咄嗟に危機感を感じ取ったアラッドは、咄嗟に糸を伸ばした。


しかし、二人が行った行動の余波に糸は吹き飛ばされてしまう。


「……ガチの化け物だな、クソったれが」


思いっきり悪態を付くアラッド。

しかし、それも仕方なかった。


「アラッドさん……終わらせます」


一か所に集まったフローレンスとウィリスは、同化を行った。


それは、精霊同化ソウルユナイトと呼ばれる精霊との合体技と言えるもの。

精霊と契約を結べる可能性が高いエルフであっても、それが行える者は限られている。


とはいえ、二人は今精霊同化ソウルユナイトを行えるようになったばかり。

体の右半分程しか完全に同化出来ていない状態。


しかし……不完全な状態とはいえ、戦況をひっくり返すには十分過ぎるほどの切り札。

天才が実戦で成長した結果であり、アラッドは今……初めてオーアルドラゴンと対面した時と、同レベルの衝撃を感じていた。


『「はぁぁあああああああっ!!!!!」』


半分は制服姿、もう半分は精霊同化ソウルユナイトを行った状態に身に纏う、特殊な戦乙女風のドレス姿のフローレンスは上空に飛び上がり、最後の攻撃を行う。


アラッドとクロ、二人を一度に葬り去るほど濃密な光の魔力と精霊の力を身に纏い、斬撃を放つ。

観客たちは……その斬撃が放たれ、この試合は終ると思っていた。


フローレンス自身も、この一撃を放てば最強の挑戦者に勝てる。

そう確信していた。


だが、ここでアラッドが授かったスキルがこの試合で、初めてそれらしい効果を発揮した。


『「ぶ、はっ!!!???」』


本人は解っていない。

何故そんな行動をとってしまったのか、一ミリも解らない。


ただ、フローレンスはいきなり……左拳で、自身の顔面を思いっ切り殴りつけた。


「ガルルルゥゥアアアアアアアッ!!!」


主人が何かをしていた。

それを即座に把握したクロは、闇の魔力を纏った爪を振りかぶり、漆黒の爪撃を叩きこむ。


「うおおおおぉぉおおおらああああああ!!!!」


相棒に続き、アラッドも全力で……最後の最後で後の事を考えてケチることはなく、最後の一撃を放った。

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