三百二十三話 これ以上先は……

何故、ウィリスと同化したフローレンスは、自身の顔面を殴るような頭のおかしい行動を行ったのか。


その理由は……寸前のところで、糸によるマリオネットが決まっていたから。


確かに糸はフローレンスがウィリスと精霊同化ソウルユナイトを行った余波で吹き飛ばされた。

しかし、魔力を纏っていた糸は……全て消し飛ぶことはなかった。


アラッドは宙に残った糸を遠隔操作で動かし、フローレンスの同化してない、左半身を操ることに成功。


同化に完全集中していたフローレンスはそれに気付かず、アラッドに止めを刺そうと動いた。

その結果、自身の顔面を自分で殴ることになり、クロの闇爪を食らい、最後はアラッドの烈風双覇断を浴びた。


反射的に右腕を体の間に動かすことは出来たが、ガードは殆ど意味をなさず、地面に叩きつけられた。


『「が、はっ!!!!」』


この衝撃でリング全体に亀裂が走り、崩壊一歩手前。

加えて、強化された自分の拳を食らい、その後にクロとアラッドの最高に良い一撃を貰ってしまい、精霊同化ソウルユナイトは完全に解けてしまった。


元々未完成の大技であり、状態を維持するのも難しく、もって十秒程度。

ウィリスの方も人間界で体を維持することが難しくなり、フローレンスに謝りながら精霊界へと戻った。


これで数的には二対一の状態……ではあるが、アラッドは直ぐにその優位を消した。


「ありがとな、クロ。お前のお陰で本当に助かったぜ」


「アゥッ!!!」


どういたしましてと返事をし、クロはアラッドの影へと潜り、場外へと戻った。


勝ちを確信したからこその余裕……ではない。

もうアラッドも限界に近いが、狂化だけはまだ消していない。


目の前の女王は、まだ意識を失っていない。

起き上がってくる可能性がある。

試合中に新たな手札を得て進化した、恐ろしさを兼ね備えた本物の強者。


審判が自分の勝利を告げるまで、全く油断出来ない。


(終わるなら……さっさと終わってくれ)


女王を相手に超善戦し、ついには勝利の一歩手前まで来たアラッド。

しかし、途中から自身を支えた狂化の発動時間が、そろそろ限界を迎える。


そのリミットを過ぎれば……クロがトロルの亜種に潰されそうになった時と同じく、意識が飛び……潰れるまで暴れ回る。

勿論、敵はフローレンスだと認識しているので、鞭を打つ形となってしまう。

そんな事態はアラッドも避けたい……避けたいが、最後まで全く油断出来ないのがフローレンス・カルロスト。


今も最後の力を振り絞り、立ち上がろうとしている。

そんな彼女の姿に、ファンたちは喉が潰れんばかりの声援を送る。


(さっさと、終わらせよう)


魔力が尽きていようが関係無い。

今のフローレンスからは、何かを起こしそうな恐ろしさを感じる。


「オオオォォォォォオオオオオオオオオオオオッ!!!!!!!!」


「「「「「「「「っ!!!???」」」」」」」」


突然起こった、会場を揺るがす程の咆哮。


フローレンスに声援を送っていたファンたちはビクッと震え、フローレンス自身も……目の前の怪物の目を見て、一歩後退った。



ここから先は、殺し合いだ。



アラッドの目から、その様なメッセージを感じ取ったフローレンス。

今までも攻撃の威力を考えれば、十分どちらかが死んでいてもおかしくない。


だが、二人にはそれらを躱して防御し、相殺する力や魔力があった。


しかし今はもう、両者とも限界が近い。

現状に限れば、狂化を継続しているアラッドが一段上。


今のフローレンスがアラッドから良い一撃を食らってしまえば、そのまま天に召される可能性があった。


「………………私の、負けです」


様々な思いが葛藤し、決断を下した。

それは、降参。


歴代最強と名高い女王が膝を付き、降参を宣言した。


「勝者、アラッド・パーシブル!!!!!」


激闘の勝者の名を審判が告げ……会場には、再び空気が割れんばかりの歓声と拍手が巻き起こった。

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