三百二十話 やはり奴の息子だ
「ウォォオオオオオオオオアアアアアッ!!!!」
「はぁあああああああああっ!!!」
アラッドが獣の様に吼えると同時に、フローレンスも気合一喝。
テンション爆上げ状態でなければ、観客の何割かは失神するかのような激圧に耐え、第二ラウンド開始。
両者の攻防は更に激しくなり、偶にぶつかり合う拳や蹴りの音は、毎回観客たちの心に響く。
目の前で、これほどまでハイレベルな攻防を見ることが出来ている。
そんな嬉しさを感じる者が多いが……会場の特殊なマジックアイテムや結界がなければ、とりあえず何十人かは余波や、弾き飛ばされた攻撃魔法によって死んでいる。
そんな滅多に見れないバトルを観れていることに感激する者が大勢だが……アラッドが予想していた通り、観客の中にはアラッドを恐れ始める者たちが現れた。
狂化の使用上、体から凶悪なオーラが零れ、瞳は怪しい赤色が宿る。
加えて、先程の咆哮。
泣く子も黙る鬼……どころではなく、更にちびってしまう程の迫力がある。
といった具合のアラッドに対し、現在のフローレンスは筋肉聖女な状態。
状態異常攻撃は効かず、狂化を使用した状態のアラッドと互角に渡り合う身体能力を得た。
フローレンスに神々しさが宿っていることもあり……少し前の、アラッド対ジャン・セイバーの試合と似た感情を持ち始める観客が現れる。
しかし、特別観客室で観戦している貴族たちのうち、フールの関係者たちはこう思った。
あぁ……やはり、あの男の息子だと。
「良いぞ、アラッド!!! そこだ!!!!」
一般の観客たちと同じくテンション爆上がりな状態で息子を応援するフール。
普段も今も、その顔は優男そのもの。
社交界でも、甘いマスクにやられた令嬢や夫人は数知れず。
だが、戦場を一緒に駆け巡った騎士たちは知っている。
獣の様な咆哮を放ち、鬼すら逃げ出す迫力を放ちながら敵を殲滅するフールの姿を。
「うぉらあああっ!!!!」
「っ!!?? せいっ!!!!」
「ちっ!!! んなろぉおおおっ!!!」
まだ決勝戦が始まってから二分ほどしか経っていないが、既にアラッドとフローレンスは何百を超える攻防を行い……リングは悲鳴を上げていた。
(これは、いったいどうなるんだ!?)
この決勝戦を務める審判は、一つ不安なことがあった。
二人の力量や身体能力から、どちらかが激闘の末に死ぬとは思っていない。
しかし、確実にリングはぶっ壊れると予想。
この決勝戦……学生が行う試合の中では、過去に遡っても例を見ない、激し過ぎるバトル。
その衝撃はすさまじく、リングが耐え切れない可能性が決してゼロではない。
リングが砕け散ってしまった場合、どう判定すれば良いのか。
(……止める訳にはいかないのだろうな)
そうなった時点で試合を止めて、ドローという結果になってしまえば、当然ボルテージが最高潮になっている観客たちから不満が続出。
加えて……現在リングを壊しそうな勢いで戦っている二人が、その結果に納得するかどうか……審判としては、そこが一番心配。
そんな審判の不安をよそに、二人の白熱した戦いは止まらない。
ただ……戦況としては、ややアラッドの方が有利だった。
デメリットとして、長時間戦いが続けば、内なる狂気に飲み込まれてしまうというものがあるが、魔力の消費量はそう多くない。
しかし、フローレンスが発動した
発動効果が優れている事もあり、魔力の消費量が多い。
だからといって発動を途切れさせれば、たちまち猛獣の如き強襲に飲み込まれてしまう。
一歩引いてしまえば、目の前の最強の挑戦者に負けてしまう。
普段はほんわかとした雰囲気を崩さないフローレンスだが、戦闘者としての誇りやプライドがない訳ではない。
魔力残量を気にして勝てる相手ではないと判断し、正真正銘……最後の切り札を切った。
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