三百十九話 体裁など関係ない
(父さんやバイアードさんを除けば、今までで一番戦いにくいな!!)
決勝戦が始まってから数分、アラッドの攻撃が数回ほど掠りはするが、それはフローレンスの攻撃も同じ。
アラッドは少々特殊だが、レベルはフローレンスの方が上。
なので、身体能力は総合的には五分五分な状態。
戦闘経験数も、いくらアラッドが馬鹿みたいに実戦を積んでいても、真面目な天才の数年間は馬鹿に出来ない。
つまり、現時点では互角。
芸術とも言える細剣の技術に惑わされることはないが、剛剣の力強さに焦ることもない。
それでいて、二人とも試合が始まってから、殆どノンストップで動き続けている。
そんなハイレベルな戦いが繰り広げている事もあり、観客たちは喉が潰れるほど叫び、両者に声援を送っていた。
「おらっ!!!!」
「ふっ!!!」
戦いが続くにつれ、徐々にアラッドの表情に……露骨な怒りが浮かび始める。
冷静さは失っている訳ではなく、ドラングと同様に怒りを戦闘力に変えている。
(なんと、強烈な怒気! 今まで一番濃密、かもしれませんね!!!)
憎しみや嫉妬などと同じく、怒りという激しい感情も、今まで何度も向けられてきたことがある。
自分と同じく、多くの部分が学生離れしていると、改めて認識させられながらも……フローレンスはその強く重い感情を、受け流すように対応する。
「チッ!!」
自身の攻撃を受け流され、カウンターを食らってはいないが、嫌な流れに思わず舌打ちしてしまう。
(聖母気取りか? 本当にウザイ対応をしてくるな!!)
殺気こそ零れないものの、更に重厚な怒りが溢れる。
攻めがより苛烈になるが、アラッドは冷静に糸を使う瞬間を探っていた。
その思考の隙を突くのが上手いフローレンスだが、アラッドはその隙を与えない。
(スタミナ切れ、魔力切れ……どれも狙うのは得策ではありませんね)
スタミナ、魔力量。共に自信を持つフローレンスだが、アラッドの戦いぶりを見る限り、それを狙えば泥沼になるのは間違いない。
(勿体ぶってる暇はありませんね)
こういった状況を想定し、奥の手を隠していた。
余裕がなくなる前に終わらせようと、切り札を使用。
「
「ッ!!??」
フローレンスの口から漏れた単語に嫌な予感を感じ、全力で後方へ下がるアラッド。
(……対戦相手にビビったのは、久しぶりだな)
スキルを使用したフローレンスに神々しさが宿り、更に筋肉の張りが強くなる。
「アラッドさん。あなたを、潰させていただきます」
「……あんたの事は好きじゃないが、その闘志は好みですね」
嘘偽りない言葉。
フローレンスが使用した言葉には聞き覚えがあり、そのスキルの習得難易度も知っていた。
(リオ、本当にお前の言葉は正しかった。この人は、本当の化け物だ)
(見た目や雰囲気どうこうなんて、考えてる余裕はないな)
「ですが、その言葉。そっくりそのまま返します」
次の瞬間、アラッドの体から危険な雰囲気が零れる。
「ッ!!!」
審判は動揺が隠せず、無意識のうちに構え、アラッドを取り押さえるべきか悩んだ。
アラッドが使用したスキルは、狂化。
身体能力が大幅に強化する代わりに、性格が狂暴化する。
思考力が鈍ることもあり、症状が悪化すれば見境なく、周囲の生物を襲い始める。
「全力で潰す。勝つのは俺だ」
まともに言葉を発する様子を見て、審判は一時的にアラッドを取り押さえるという考えを撤回。
思考力があり、まだ危険な状態ではないと判断。
とはいえ……両者が使用したスキル、状態を見て審判は二人の戦闘力に、恐ろしさを感じざるをえなかった。
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