三百十八話 何処かで会った?

タッグ戦トーナメントの準決勝戦が二つとも終了し、いよいよ個人戦トーナメントの決勝戦が行われる。


ジャン・セイバーとの準決勝戦で消費した魔力はポーションを飲んで回復し、スタミナも問題無し。


(しっかり勝って終わらせて、美味い飯を食べよう)


父親であるフールから、既に超高級料理店を予約していると伝えられている。


フールもフローレンスの戦いっぷりは見ており、その実力は本物だと認めている。

ただ、一度本気のアラッドと戦ったことがあり……その時を思い出すと、やはり息子が勝利するのは絶対だという思いがあった。


(よし、行くか)


選手入場の声がアナウンスが聞こえ、リングへと足を進める。


前世のアラッドであれば、緊張感で体が超速で震えていてもおかしくないが、今のアラッドは……リングの上でフローレンスをぶっ飛ばすことしか考えていなかった。


我ながら良い調子。

そう思っていたが、通路から現れたアラッドに、全方位から声援が降りかかる。


形のない重りを背負っている……そう思わざるをえない状況。

それでも、こうなることを想定しており、止まることなく歩を進める。


そして遂に……二連覇を狙う女王とご対面。


「えっと、以前どこかでお会いしたでしょうか?」


初対面の第一声。

ナンパか? と思える内容だが、アラッドの雰囲気から、フローレンスがそう思うのも無理はない。


何故なら……ポーカーフェイスを務めているつもりだが、僅かながらにフローレンスに対する嫌悪感が零れていた。


「いえ、このリングの上での対面が初めてですよ」


「そうですよね。でも、私のことを好ましくなさそうな表情をしていたので、もしや何処かでお会いしたことがあるのかと思って」


男女問わず好かれるフローレンスだが、全員が全員フローレンスのことを好いている訳ではない。


家族内でも、フローレンスのことを憎く思っている者すらいる。


「強いて言うならば、俺とあなたの考えが合わない。それだけですよ」


「そうなのですね」


アラッドの感情が深くは解らない。

ただ、自分のことを好ましく思っていないのは確実。


(試合が終わった後、お話してみたいですね)


フローレンスの脳内をアラッドが除けば、クソお花畑と罵倒するだろう。


そんな互いの心中は完全に把握出来ないまま、いよいよ今年の学生最強を決める試合が始まる。


「それでは……始め!!!!」


審判が試合開始の合図を始めた瞬間、フローレンスはレイとの試合では使わなかった手札を即座に切った。


(ちゃんとこっちの情報は収集してるって訳か)


強化系のスキルを即使用するだけではなく、フローレンスは自身の体に風を纏っている。

脚力などが上昇するだけではなく、弱い遠距離攻撃では、当たる前に纏う風の影響で流されてしまう。


そして……アラッドが糸で攻撃しようとしても、切断されてしまう。


過去に絡んできた令息の服を解体した、という情報は得ており、そういった攻撃に対する対策は万全。

そういった攻撃に集中すれば不可能ではないが、その他の攻撃が襲い掛かってくるため、実質不可能。


(レイとの戦いを見てたが、魔法の腕も相当だよな)


いきなり一つ手札を潰されたアラッドだが、表情に動揺は一切ない。


「シッ!!!!」


「ッ!!」


アラッドも属性魔力を纏い、その場その場で臨機対応に動く。


加えて、一分ほど斬り合った結果、腕力には自分に分があると把握。

手痛いカウンターを食らわないように、冷静にフローレンスの動きを見極め、徐々に攻める。


(この時点で、既にレイさんよりも恐ろしいですね)


今のフローレンスの身体能力は、レイとのバトルと同じ。

その時のレイはベストな状態だったが、アラッドはまだギアを上げ切っている様には思えない。


自分を相手に、そんな状態でやや優勢な戦況を保つ学生……そんなアラッドを相手に、女王は一歩も引かず、同じく動きを見極め始めた。




新作、カバディ男の異世界転生。狩られたい奴はかかってこい!! の連載を始めます!


読んでいただけると幸いです。

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