三百十七話 野郎たちのファインプレー

「勝者、アラッド・パーシバル!!!!」


審判がアラッドの勝利を宣言した瞬間……ジャン・セイバーの女性ファンたちが口を開く前に、野郎たちの称賛が会場に響き渡る。


そのお陰もあったが、ファンとしては不満があるものの、誹謗中傷が飛び交うことはなかった。


「お疲れ様、アラッド」


「おぅ、ありがとな」


大勢の観客たちの声が飛び交う中、何故か友人たちの声援は良く聞こえていた。


野郎たちの声援も嬉しかったが、やはり友人たちからの声援は確実に心の支えとなっていた。


「はっはっは、災難だったなアラッド」


「はは、そうだな。まさかあんな事になるとはな……まっ、仕方ないっちゃ仕方ないんだろうけどさ」


中々試合を決めなかった自分が悪い。

アラッドは自分にも非があった……と思っているが、レイたち女性陣はあの状況に怒り心頭だった。


「……思ったんだけどさ、なんであっさり決めなかったの」


「いや、決めようとは思ってたぞ。結構重めに打撃をぶち込んだんだけど……ジャン・セイバー先輩も、生半可な鍛え方をしてなかったってことだろ」


実際のところ、内臓をやってしまわない程度の威力で打撃を繰り出していた。


とはいえ、それでもアラッドの一撃一撃で激痛を感じていたのは間違いない。


「俺に恨みとかはなさそうだったから……心の底から、フローレンス・カルロストとの決勝戦を望んでいたんだろうな。その執念が半端じゃなかった」


「何発も良い攻撃を貰っても立ち上がってたもんな」


「俺としてはギブアップしてくれた方が嬉しかったんだけどな」


その方が個人的に有難かった。

だが……ジャン・セイバーの執念を感じ取ってしまえば、自分の口からそれを促すことは出来なかった。


「でも、強かったよ。もっと違う戦い方をされたら、場外に吹き飛ばされてたかもしれないな」


「あり得ないとは言えない強さは持ってたよな……んで、次はもう決勝だけど、どうよ」


現在、アラッドたちの視線の先ではタッグ戦トーナメントの準決勝が行われている。


その二試合が終われば、いよいよアラッドとフローレンスの決勝戦が始まる。


「……とりあえず、あの人何か隠してるだろ」


レイとの準決勝戦を見て、殆ど確信に変わった。


「やはりか」


「気付いていたのか、レイ」


「確信はなかったがな。何となくだが……本当の意味で全力を出している様には思えなかった」


「あれで全力を出してないとか、化け物かよ」


「化け物だろうな」


アラッドはリオの言葉を全肯定した。


最終的にベストな状態だったレイを小細工で倒したが、その小細工は相手の動きを誘導する超難易度の技術。

運良く出来るものではなく、その辺りも含めて化け物であることに変わりはない。


「ただ、それはこっちも一緒だ。隠してる何かが予想を超えないものなら、倒せる……というか、絶対に倒す」


聞き耳を立てていた観客たちは、アラッドの勝利宣言を聞き、目の前の戦闘を忘れてしまう興奮を覚えた。


「ったく、カッコ良いなおい」


「うん、本当にカッコ良いよ!」


「だね。僕も見習わないと」


今のアラッドには、同じ男が憧れる男となっていた。


ただ、リオたちは憧れてるだけじゃ辿り着けないことも理解しており、闘争心に大きな火を灯す。


「自信満々ですわね。私たちも知らない手札を持っている、ということかしら」


「ふふ、そこはご想像にお任せするよ、エリザ嬢」


当たり前だが、それはこの場では口にしない。


とはいえ……アラッドとしては、あまり使いたくない手札もある。

しかし、戦況次第ではそんな我儘を言ってられない。


フローレンスに対してどんな思いを持っているかなど関係無く、次の一戦は絶対に負けられない。

ここまで勝ち上がってきたからこそ、その気持ちは更に大きくなっていた。


(勝たないと、ジャン・セイバー先輩にぶん殴られそうだな)


深い会話をした訳ではない。

それでも剣を、五体をぶつけ合うことで、少なくともアラッドは……ジャン・セイバーの執念を感じ取った。

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