三百十五話 通過点と準備運動
リングの修復が終わり、今度はアラッドとジャン・セイバーがリングの上に上がっていた。
観客たちの中には、この戦いで今大会最強の男子生徒が決まる、と話し合う者たちがいた。
普通に考えれば、戦いの相性なども踏まえて、その通りだとは断言出来ないものだが……今回ばかりは違う。
ジャン・セイバーは前個人戦トーナメントの準優勝者。
当時二年生だったこともあり、十分な快挙を成し遂げている。
そしてフローレンス・カルロストと同じく、努力を怠らないタイプの天才。
男が女に負けたままで終われない!!!
などと、差別的な考えは持っていないが、それでも公式の場でリベンジしたい……彼女に勝ちたいという思いは、誰にも負けない。
そんなジャン・セイバーと相対する生徒は、学生の中でも常に上位に名を連ねる実力を持つ家系、パーシバル家の三男。
何故彼がこの大会に出場したのかを聞けば……騎士を目指す者でなくとも、怒りを抱くかもしれない。
しかし、誰が彼をどう思おうとも、アラッドの実力が本物であることは変わらない。
校内戦では全ての試合を数撃で終わらせ、今大会では終始優位な戦況で戦いを進め、勝利を手にしている。
戦いの内容は違えど、レイと同じく脅威の一年生であることに変わりはない。
そんなアラッドを前にして、ジャン・セイバーは非常に女性受けが良い笑みを浮かべ、握手を求めた。
「やぁ、噂は聞いてるよ。パーシバル家の秘密兵器君」
「俺、そんなあだ名で呼ばれてるんですか」
呼ばれた名に疑問を持ちながらも、しっかり握手に応えるアラッド。
ただ、呼ばれた名には聞き覚えがなかった。
「大会が始まってから、観客たちに付けられた二つ名だね」
「そうなんですね。知りませんでした」
殆ど社交界などに出ることもなく、他人に実力を見せる機会もなかったので、パーシバル家が隠していた秘蔵っ子……と、思われてもおかしくない存在。
「君の話を少し耳にしているけど、僕は負けるつもりはないよ。フローレンスに、去年の借りを返さないといけないからね」
ジャン・セイバーの表情からは軽そうに聞こえるが、対面しているアラッドは本気と書いてマジなのだと解る。
「そうですか。でも、俺もジャン・セイバーさんが知っている通り、負けられない事情があるので、負けるつもりはありません」
「良い闘志だね」
そこで開始前の探り合い? は終了し、二人は開始位置に戻る。
(良い人っぽいけど、何か裏がありそうなタイプに思えるのは、俺の気のせいか?)
何か裏がある。もしくはキレたらヤバいタイプ。
それがジャン・セイバーに対する印象だった。
「それでは、始め!!!!」
準決勝二回戦目も一回戦目と同じく、両者は開始の合図と同時に駆け出し、斬り結ぶ。
ジャン・セイバーにとって、この戦いは通過点。
去年の雪辱を晴らすために、通過して当然の戦い。
アラッドの実力を侮ってはいない。
レイ・イグリシアスと同じく、驚異の一年生であると認識している。
ただ、宣言した通り負けるつもりなど、毛頭ない。
何が何でも決勝戦に行く。
そんな思いを抱くジャン・セイバーに対し、アラッドはこの準決勝……フローレンス・カルロストを倒すための、丁度良い準備運動だと認識していた。
(……レオナと比べて、二段ぐらい下といったところか。学生の中では強いのだろうが……警戒し過ぎたか)
弟のドラングよりは強い。
しかし、先程リングの上でベストな状態で戦っていたレイよりも強いのか……その点に関しては、即答できない程度の強さ。
勿論、ジャン・セイバーもレイやフローレンスと同じく、準決勝まで本気を出していなかった。
(何かを隠してるなら、早めに見せてもらいたいな)
今のところ、奥の手を隠している様には見えないが、隠してるなら是非とも見たいと思い、予定よりも早い段階でギアを上げた。
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