三百十話 預言者?
「お前にしてみれば、くだらないプライドなのだろう。しかし、このプライドを捨てれば、俺はこれ以上強くなれない」
目の前の薬を手に取れば、もう後には戻れない。
仮に薬を飲んでアラッドに勝てたとして……それは本当に自分が望んでいた形なのか?
そうではないと断言出来る。
「もう、俺に関わるな」
胡散臭い男からの提案を切り捨て、ドラングはその場から去ろうとする。
(……消してしまうか)
男が今まで誘惑してきた生徒たちは、全員麻薬を手に取った。
飲ませてしまえば、もうこちらのもの。
今まで誘惑してきた中で、一番上手くいくと思っていた相手が、まさかの誘惑を断ち切った。
男としては、自分の提案に乗らなかった相手は、なるべく消しておきたい。
胡散臭い見た目ではあれど……そこら辺のボンクラよりは強く、今のドラングであれば殺すのは容易い。
この場で殺すことを決断し、男はドラングに短剣を持って斬りかかる。
「ッ!!! ……消え、た?」
後方からの敵意、殺気を感じて後ろに振り向き、戦闘態勢に入ったドラングだったが、そこにはあの胡散臭い男はいなかった。
「……一応、報告しておくか」
ここ最近、何名かの生徒が危険薬物を使用し、後遺症で苦しんでいるという話は、耳に入っていた。
今になって、自分に話しかけてきた人物は、まさにその話に出てくる男なのだろうと思い、大会関係者を探し始めた。
さて、その胡散臭い男は今……ガルシアによって気絶させられ、担がれていた。
「アラッド様は、予言の力も持っているのかもしれないな」
アラッドから事前に事情、情報を手紙で伝えられ、急遽購入した身を隠せる高級ローブを身に纏い、ドラングが裏の人間の誘いに乗ってしまわないかを監視していた。
そして男がドラングに襲い掛かる前に、引き離すことに成功。
そこら辺のごろつきには余裕で勝てる実力があっても、本当の実力者であるガルシアには敵わない。
「ここか」
ガルシアは大会運営の警備を担当している者たちが集まる部屋へと移動。
フールからパーシバル家の者だと証明する短剣を預かっており、身分を証明して事情を説明。
無事に胡散臭い男は牢獄にぶち込まれ、情報収集のために拷問されることが決定した。
「お疲れ様、アラッド」
「おぅ」
「良い顔してるじゃん」
「……そうかもな」
ドラングと公式戦でぶつかり合い、弟が積んできた今までの努力や思いが伝わった……ような気がする。
今回の試合で、今までの不仲が解消される訳ではない。
それはアラッドも解っているが、何はともあれ楽しい試合だった。
それだけは、アラッドの中で変わらない事実。
満足そうな笑顔を浮かべるアラッドを見て、レイは少しドラングに嫉妬した。
(兄弟だからこそ、得られた楽しみがある、ということか)
一年生という立場を考えれば、順調過ぎる戦績。
現時点の戦績でも、将来有望……未来が明るいことに変わりはない。
しかし、自分もアラッドと公式戦でぶつかり合いたい。
その思いが高まる熱を……友人であるマリアたちは感じ取っていた。
(絶対に無理……とは言えませんね)
(レイの身体能力を考えれば、チャンスさえ逃さなければあり得ますわね)
(アラッドとレイの試合……それはそれで楽しみ)
個人トーナメント、最後の第三試合が終了し、タッグ戦の試合が始まる。
結果、ヴェーラとベルのタッグのみ、準々決勝に進むことが出来た。
「いやぁ~、あそこでもう一踏ん張り出来てたらな」
「同感ね。来年はこうはいかないわ」
「もっとキビキビ判断出来てたら……」
「私の判断速度も甘かったですから」
昼食中、リオたちは上級生たちとの試合に負けたが、誰も相方を攻めることはなく、冷静に試合でのミスや失策を反省していた。
(ベストエイトまで登ってきた相手って考えると、気張っていかないとな)
午後に試合が残っているアラッドがいつも通り、燃料補給のためがっつり食べていると、大会の運営係の者から一枚の手紙を渡された。
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