三百十一話 そんな自分を恥じた
「……やっぱりか」
「どうしたんだ?」
「いや、なんでもない」
手紙の送り主はガルシア。
手紙にはドラングを誘惑しようとした男について書かれており、警備の人間に引き渡しが完了したという報告だった。
「もしかして、早速縁談の申し込みでもきたか?」
「なんでそうなるんだよ」
「大会であれだけ活躍してるんだ。何だかんだで、またそういう話が来てもおかしくないだろ」
リオの言う通り、一旦収まった縁談ラッシュが再び起こってもおかしくない。
だが、アラッドはそれを直ぐに否定した。
「ゼロではないかもしれないけど、俺は今回の大会が終わったら、もう学生じゃなくなるだろ。そういう部分を考えれば、当主たちも頭が冷えるだろ」
貴族に取って、強いというのは大きなステータス。
それだけで縁談を引き寄せることになるが、アラッドの場合は騎士の爵位を得ても、騎士の道に進むことはない。
その話も広まっているので、少しだけでも考える頭を持っていれば、アラッドに縁談を申し込むことはない。
「とにかく、今は大会に集中するだけだ」
縁談を直接本人、もしくは当主から持ちかけられても、一先ずノーと答える。
それほど、アラッドの集中力は徐々に高まっていた。
昼休憩が終わり、四回戦目がスタート。
レイは前回までの試合同様、十秒と経たずに試合を終わらせた。
そろそろ飽きてくるだろ……と思ったアラッドだが、他の観客たちの様子は反対。
ここまで全て十秒以内で終わらせてきたレイの活躍に、大きな声援と拍手を送る。
そして次の試合では、フローレンスも前回までの試合と同じく、相手の限界値を引き出してから試合を終わらせる。
最後まで余裕な表情が崩れることはないが、対戦相手はその結果を受け入れており、後悔という思いは残っていなかった。
(……ある意味凄いんだろうな)
好きではない存在に変わりはないが、その強さは本物だと再度感じ……アラッドの準々決勝戦が始まった。
「そこまで!」
ドラングの試合までは折角の戦いを楽しみながら動いていたが、今回の試合は約一分程度で終了。
(ちょっと気張り過ぎたか?)
本気は出していなかったが、準々決勝まで上がってきたということもあり、楽しもうという気持ちが確実に薄まっていた。
そして続くジャン・セイバーの試合も順当に進み、今年の四強が出揃った。
フローレンス・カルロスト、ジャン・セイバーは予想通り。
レイの四強進出も……毎年大会を見に来ている人たちの中には、一年生ながらに暴れてくれると予想していたい者もいた。
しかし、アラッドという生徒が上がってくるのは予想になく、過去を調べ始める者が増えた。
パーシバルという苗字を覚えている者は多いが、アラッドは過去の公式戦などに出ておらず、公になっている戦績は今まで皆無。
だが、観客たちにとって、いきなり現れるダークホースというのも、胸が躍る存在。
こうして個人戦の四強が出そろってから約三十分後、タッグ戦の四強も出そろった。
「……」
「はぁ~~、無性に特訓したくなってきたよ」
「それは、悔しいって気持ちがある証拠だな」
ヴェーラとベルは、惜しくも四強入り出来なかった。
この結果に、普段は表情の変化に乏しいヴェーラだが、この時ばかりは付き合いが長いリオたちでなくとも、怒っていることが目に見えて分かった。
勿論、相方のベルに怒っている訳ではなく、自分の実力不足に怒りを感じていた。
他人は二人のベストエイトという結果を褒めるかもしれないが、ヴェーラとしては一ミリも納得がいかない結果。
ベルは戦いに敗れたと、その時はベストエイトといった戦績に満足していたが、直ぐにそんな感情を持った自分を恥じた。
二つの大会の四強が出揃ったところで、少し長めの休息を挟み……いよいよレイにとって、何が何でも勝ち抜きたい試合が始まる。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます