三百八話 全ての部分で負けていた
アラッドもやろうと思えば、猛火双覇断を放つことが出来る。
しかし、自分と最も相性が良い魔力は、風だと自覚している。
なので……風の魔力を鋼鉄の剛剣・改に纏い、構える。
観客たちは、今度は逆のパターンが起こると思い、ワクワクする思いが止まらない。
対して、ドラングの頭にはアラッドの攻撃を回避するという選択肢があった。
自分が放った猛火双覇断が効いていないとは思わないが、まだアラッドの身体能力が下がったとは思えない。
(カウンターで決めるしかない)
アラッドの速さを利用し、カウンターをぶち込む。
残り少ない魔力を全て消費して、この試合を終わらせると決めた。
その直後、アラッドが猛加速。
初速から最高速度までの加速を感じさせない程の速さで、ドラングとの距離を一気に縮めた。
(クソがッ!!!!!)
カウンターどころの話ではないと、本能的に察知。
体が無意識に動き……アラッドの斬撃を防御した。
しかし、アラッドが放った攻撃は、猛火双覇断を自分なりに変えた攻撃、烈風双覇断。
その一撃は、切断力だけであれば、猛火双覇断を凌ぐ。
放たれた一撃はドラングの予想を超え……ガードしていたロングソードが音を立てず、切断された。
「がっ!!??」
アラッドは烈風双覇断でロングソードをぶった斬った後、そこで終わらずに持ち方を変えて、横から腹に鈍い一撃を叩きこむ。
刃は立てていなかったため、ドラングの腹が真っ二つに切断されることはなかった。
しかし、重い一撃であることには変わらず、壁まで吹き飛ばされたドラングは重傷。
鋼鉄の剛剣・改を叩きこまれた脇腹の骨は、粉砕状態。
「ッ、がはっ!!!!」
リング外に落ちたドラングは思いっきり血は吐くが、気絶はしなかった。
とはいえ、スタミナはまだあれど、重傷を負ったことで身体能力はダウン。
魔力も無くなり、武器を切断された。
もう……ドラングには戦う武器が残っていなかった。
そんな中、アラッドはリングの上で自分の勝ちはもう決まった……といった表情はせず、全く気を抜いていない。
まだドラングが上がってくるかもしれない。
そうなれば、いつでも戦える様にと、臨戦態勢を解かなかった。
「……ぬ、ぁ」
重傷だろうが何だろうが関係無い。
意地でも立ち上がろうとするドラングだが、ここで審判が止めに入った。
もうドラングがアラッドと戦闘を続行できる状態ではない。
仮にこれ以上戦おうとすれば、ドラングが死んでしまう。
そう判断し、審判はアラッドの勝利を宣言した。
そして毎試合の様に、観客たちは二人の試合に賞賛を送り、湧き上がる。
ただ……そんな声も賞賛も、今のドラングには関係無かった。
まだ自分は戦う。
絶対に拳を一発はぶち込む。
全く闘争心が衰えないドラングだが、審判に諭され……現実を受け入れるしかなかった。
(今、声を掛けるべきじゃないな)
色々と伝えたい言葉はある。
しかし、そのどれもが敗者に……弟に向ける言葉ではないと思い、アラッドはリングから降り、レイたちの元へ戻った。
ドラングは大会の実行委員の者が付き添い、医務室へと運ばれた。
「よくこんな攻撃を受けて、気を失わなかったね。大したものだ」
「…………」
今大会専属の治癒師がドラングのタフネスを褒めるが、ドラングは全く反応を示さない。
実際のところ、アラッドが放った二太刀目は抑えたとはいえ、一般的な攻撃と比べれば高威力であるのは間違いない。
そして終盤、魔力を大きく消費したことで、ドラングの防御力が下がっていた。
その二つを考えると、最後の一撃でドラングが気を失ってもおかしくない。
(……あの一撃は、猛火双覇断を自分の形に変えたもの、だよな)
アラッドを仕留めるつもりで放った父の技は、過去最高の出来だったと言える。
だが、兄が最後に放った一撃は……自分が放った一撃を、努力を上回っていると感じた。
結局、どの部分でもアラッドに負けたのだと思い……涙が零れそうになった。
「ッ!!!」
その瞬間、ドラングは涙を零しそうになった自分を恥じる。
そして治療を終え、医務室から出て少し歩いたところで……とある人物と遭遇した。
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