三百七話 憧れには憧れを
これからドラングがどういった攻撃を仕掛けてくるのか、容易に想像出来てしまう。
ここでアラッドが糸を使用すれば、ドラングの負けは決定。
そんな事は解っているが、糸を使用するつもりは毛頭ない。
(受け止め切ってやる)
普段よりも多い魔力を身に纏い、これから襲い掛かるであろう衝撃に備える。
因みに、これからドラングが行う攻撃はアラッドだけではなく、他にも現役の騎士や、現役を退いた騎士……勿論、フールたちも気付いていた。
「……うぉおおおおおおおおおおっ!!!!!」
勝つという感情以外の雑念を振り払い、全力で駆け出す。
スピードに特化した構えからのダッシュは、多くの観客には……ギリギリ線だけにしか見えず、現役騎士たちから見ても、速いと感じさせる。
そしてアラッドをぶった斬る瞬間、体を反対方向に捻り、逆袈裟斬りを放つ。
ロングソードに火を纏ったこの斬撃は……フールが現役騎士の時に、ほぼソロでAランクのドラゴンを倒した技、猛火双覇断。
(っ!!!!! ぬぅぅおおあああああっ!!!)
弟の最強の一撃を鋼鉄の剛剣・改で受け止めようとするアラッド。
猛火双覇断は、剣技のスキルを覚えれば習得出来るスキルではない。
故に、剣技のスキルを習得しており……火魔法のスキルを覚え、ロングソードに火の魔力を纏うことが出来る。
そして、それらしい動きが出来れば……その技を使えると言える出来るかもしれない。
ただ……大半の戯言を吐く者たちの猛火双覇断は、見るに堪えない、しょうもうない一撃。
フールが……フールの強さを良く知る人物たちが、同じ一撃だと断言出来るほどの質の高い猛火双覇断を使える人物は、世に数えるほどしかいない。
そんなフールの息子であるドラングが放った一撃は……お世辞にも、同じ一撃とは言えない。
しかし、今この場で見た者たちは、本物の領域に一歩ではあるが、足を踏み入れていると感じた。
ロングソードに纏う火力、対象に接近するまでの加速、剣を振るう時の動き。
どれも一朝一夕で身に付けられる精度ではない。
長い月日を技の習得に費やし、身に付けたのが解る。
ドラングの執念や憧れを詰め込んだ一撃と言えるだろう。
「どうだ、俺の猛火双覇断、は」
この一撃で終わらせるために、殆どの魔力を使ってしまった。
最高の一撃を繰り出した瞬間、確かにアラッドをその場から動かした感触があった。
それが勘違いでなければ、決してノーダメージではない。
(いや、気を緩めるな!!!!)
今自分が繰り出せる最高の一撃を出せたが、相手は化け物中の化け物。
ノックアウト出来たと確信は持てない。
「今のは、驚いたぞ」
ほこりが消えると……そこには、リングのギリギリで踏みとどまっているアラッドがいた。
ドラングが猛火双覇断を放ったことで、その学生離れした一撃に観客は盛り上がったが、アラッドだがその一撃を受け止め……更に立ち上がった。
まだまだ動ける様子であることが追加要因となり、観客たちは更に盛り上がる。
(本当に父さんの一撃を放ってくるとはな……でも)
ここで一つ、ドラングの猛火双覇断に対する一撃が沸き起こる。
先程の一撃は、戦いが始まってから最高最強の一撃であり、他の上級生をも圧倒する一撃だと認める。
ただ……アラッドはこの一撃を、過去に本人から食らっていた。
(っ…………良くないな。ここまで成長したドラングに言うべき言葉ではないな)
思考を切り替え、アラッドは先程のドラングと同じ様に構えた。
父への憧れには、同じく憧れで返す。
「いくぞ、ドラング」
同じ様に「受けられるよな?」とは言わない。
ここでドラングが回避という選択を取ったところで、責めるつもりはない。
アラッドは剣技のスキルを特別な才として受け取れなかったが、自分なりの形に変え、弟にぶつけた。
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