三百六話 逃げない
訓練は毎日欠かさず行っており、休日でもハードな自主練を欠かさない。
ドラングのスタミナも随分と伸びたが……アラッドのスタミナにはあと一歩及ばない。
加えて、実力差による戦況が徐々に影響し始め、両者のスタミナの消費量が変わり始めた。
ドラングがどれだけ新たに得た技術を駆使し、効率良く冷静さを失わずに攻めたとしても、アラッドはそれらを嬉々として対応し、剣筋を読んでカウンターを行う。
読みならドラングも多少は慣れてきたが、カウンターがくると解っても、中々カウンター返しは出来ない。
「……勝負あった、かもしれないな」
「そうだね……徐々に開き始めたしね」
中等部からのクラスメートの成長に驚いていたレイ達。
本当にここ最近の成長には驚かされ、自分たちにとって良い刺激になったことは認める。
だが、現実は努力した者が必ず報われるとは限らない。
そもそもな話、アラッドもドラングに負けず鍛錬と実戦を重ねている。
ドラングが死に物狂いで鍛錬を積んでも……アラッドに勝つという目標が叶うかどうかは、また別の話。
「やっぱり、アラッドは強い」
「そうね。ですが、それでもドラングは頑張ったと思いますわよ」
「同感ですね。私はあそこまでアラッドさんと斬り合える自信がありません」
ドラングが努力を積み重ねる理由がなんであれ、強くなったのは間違いない。
それはレイたちも認めている。
良く頑張ったという言葉を送りたい。
(クソが! このまま……まだ、終われるかよ!!!!)
自分でも微力ながら強くなったのは分る。
戦い方が上手くなったと言える。
それでも……他人から「良く頑張った」「アラッドを相手に良く戦ったよ」という言葉が欲しい訳ではない。
アラッドにどうしても倒したい男に、勝ったという事実が欲しい。
それ以外は何もいらない。
その思いが体に現れたのか、スタミナ切れで開き始めた差が徐々に縮まっていく。
(そこから盛り返すのか……本当にワクワクさせてくれるな!)
アラッドにとって、この大会で楽しみにしていたのはレイとドラングとの試合。
他の試合にはそこまで興味がなく、フローレンス・カルロストに関しては桁外れに実力が高くとも、ぶっ潰したいという思いの方が強い。
故に……この戦いは、純粋に楽しい数少ない試合。
元々余裕があった表情に、更に良い笑みが追加される。
(スタミナも、化け物かよ!!!)
過去に何度か体験したことがある、疲れていてもベストなパフォーマンスが出せる状態。
今自分がその状態だと解るドラングは……ここを逃せば勝機はないと断言出来た。
(やるしか、ないか!!!!)
力重視の斬撃を叩きこみ、アラッドが防いだ反動で後方に跳び、距離を取る。
普通に考えれば突っ込んで追撃する場面だが、敢えて飛び込まなかったアラッド。
(……その方が、今は有難い)
本心は「余裕ぶっこきやがって!!!!」と、自分に追撃をしてこないアラッドに不満たらたらだが、その兄に勝つためとなれば……その不満を甘んじて受け入れる。
「アラッド」
「なんだ」
「……逃げるなよ」
あまりにも分かりやすい挑発。
一番の切り札をぶつける為に、アラッドから逃げるという選択肢を消そうとするドラング。
その考えは観客たちにもバレバレ。
ここで馬鹿正直に避けないのはアホ……と思うかもしれないが、観客たちとしてはアラッドがドラングの攻撃をどう対応するか、それを見てみたい。
それを決めるのはリングに立っているアラッドの気持ち次第なのだが……アラッドは目の前の構えに見覚えがあった。
(父さんから教わってたんだな)
ドラングはかなり前傾姿勢で剣を構え、つま先立ちの状態。
ロングソードには残り全ての魔力を消費するほどの火が纏われており、その一撃に全てを懸けている気持ちが手に取るように解かる。
「あぁ……勿論、逃げない」
アラッドは防御に近い構えを取り、嬉々としてドラングの挑発に乗った。
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