三百三話 手放しても自信はある
「策士策に溺れる? ってところか」
上級生が取った行動は、決して悪くなかった。
寧ろ最善の一択と思える策だったが、それをレイはある程度読んでいた。
(顔に秘策あり、って思いっきり出てたのかもな)
今大会での戦いっぷりや、中等部時代の戦いっぷりを考えると、レイは超脳筋ガール……という印象を持たれていてもおかしくない。
それだけでも十分に脅威だったため、その戦闘スタイルを馬鹿にする者は現れなかった。
だが、上級生はその重い初撃をなんとか弾き、自分の攻撃をぶち込もうと考えた。
単純かもしれないが、それでも上手くいけば効く内容。
事実として、一般人とは体のできが違い特異体質を持つレイでも、上級生の実力と手甲、脚甲の力を合わせれば大きなダメージを与えられた。
「あの一瞬で判断したのか?」
「どうだろうね。もしかしたら、リングに上がった段階から気付いてたんじゃないかな。ほら、アラッドの校内戦でも似た様なことがあったよね」
「ん? …………そういえば、そんな事あったな」
今大会には出場できず、友人であるドラングの応援に回っているアイガス・ナスト。
彼も同じ策を用いて反撃の糸口を見つけようとしたが、アラッドのヤクザキックを食らい、呆気なく散った。
「上手く隠せてたら、勝負は解らなかったかもな」
「だとしても、大剣を手放すなんて随分と思い切ったことをしましたね」
「……レイ嬢の一番の武器は、大剣の扱いではなく身体強化。その点を考えれば、寧ろ自信を持って手放せたのかもしれない」
「うっかり忘れてましたわ」
大剣の扱いが日に日に上達している為、ヴェーラは素でレイの一番の長所を忘れていた。
「この試合勝った人が、レイ嬢の準々決勝の相手か」
リングに上がった二人は共に最上級生。
互いにそこそこ面識があり、手の内もある程度読める。
だからこそ、試合開始の十数秒は硬直が続いたが、片方が動き出し、それに応える対戦相手。
そこから数分間、先程の試合とは打って変わって激しいバトルが続く。
レイの瞬殺劇も盛り上がるが、現在行われている試合の様に激しい戦いも、勿論観客たちにとっては大好物。
(この試合が終われば、次はあの人の試合か)
アラッドが心の中で呟くあの人とは、フローレンス・カルロスト。
現在行われいる試合は十分盛り上がる試合だが、アラッドは……どちらが上がってこようとも、レイなら勝てると確信していた。
その為、半分ほど意識が別の事に向いていた。
「アラッド、決まったよ」
「そうだな、ルーフ……次の試合は、どうやら消化試合になるかもな」
次の試合とはフローレンス・カルロストが出るものではなく、レイの準々決勝。
今試合を終えた二人の実力は、殆ど拮抗していた。
故に、勝負の差はほんの紙一重。
戦った時間はほんの数分と言えど、二人の最上級生にとっては濃密な数分。
体力も魔力も殆ど消費していた。
(どうやら、レイ嬢がまともに戦う試合は、準決勝だけになりそうだな)
そしてリングにはフローレンス・カルロストと対戦相手が現れ、会場はフローレンスの応援一色となる。
(多分、二年生か三年生だよな。十七か十八とはいえ、この状況下で戦うのはさすがに……って、他人の俺が心配しても無意味か)
結果として、その試合はフローレンスの勝利に終わった。
だが、それでも対戦相手はほぼ孤立していると言っても過言ではない状況下で、最高のベストパフォーマンスを発揮。
フローレンスに負けて悔しいという気持ちがゼロではないが、それでも永遠に記憶に残り続けるような後悔はなかった。
「それじゃ、行ってくる」
「「「「「「「いってらっしゃい」」」」」」」
次の次に試合を控えるアラッドは、運営から事前に伝えられていた入場口へと向かう。
弟が今でも自分の事を嫌っているのは解る。
ただ、それでもアラッドにとってこれからの一戦は、非常に待ち遠しいものだった。
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