三百二話 一言申すなら……
八人で夕食を食べ終え、会計時……アラッドが全て支払おうとしたが、レイたちが全力で止めた。
自分たちもそれなりに小遣いは貰っているので、自分の分は自分で出すとハッキリ告げた。
アラッドとしては、自分が全て出しても構わないと思っていたが、口に出すべきじゃないと判断。
大体八等分で支払い、宿に戻る。
そして翌日……本日はタッグ戦の二回戦目から始まる。
「そこだ、いけ!!!!」
リングでは友人が必死に戦っており、レイは令嬢……という立場を気にすることなく、全力で応援していた。
それはそれで彼女らしいと思い、アラッドも声を出して応援を始める。
一時間以内に二回戦目が終了し……結果、ギリギリではあったが、ベルたちは三回戦に進むことが出来た。
「お疲れ様」
六人に労いの言葉を掛け、昼食時までゆっくりした方が良い。
無理に観客席で応援しなくても良い……そう伝えたのだが「休息はしっかり取るよ。でも、応援はする」と、一部却下された。
これまた何を言っても頷かなそうな表情をしている為、それ以上その事についてあれこれ言うのを止めた。
「分かったよ。なら、皆でレイの応援をしよう」
勿論、ベルたちもそのつもり。
ただ……一つ、全員思っている事があった。
今回の勝負も、また十秒も持たず終わってしまうのではないか、と。
今年の個人戦で、圧倒的な格の違いを見せ付けながら駒を進めているのは、レイとフローレンス。
そしてアラッドとジャンの四人のみ。
これからレイと戦う者も実力者であることに変わりはないが、それでもレイの初っ端から強撃の連続に耐えられるかといえば……アラッドも含めて無理だと思っていた。
「ん?」
ただ、アラッドは遠目から見えた対戦相手の表情から……何か秘策でもあるのか? と思えた。
(耐えられることには耐えられるとは思うが……そこから抜け出せるか?)
本当に何か秘策でもあるなら、それはそれで面白い。
そして遂に……個人戦の三回戦目が始まった。
「やっぱり直ぐに終わるか」
レイが先日と同じく爆速ダッシュで距離を詰めるのを見て、リオはそう呟いた。
だが、直ぐに対戦相手の動きにヴェーラがいち早く気付く。
「相手も、そのつもりっぽい」
レイの対戦相手は手甲と脚甲を身に纏って戦う、素手で戦う戦闘スタイル。
男は斬撃を弾き返すために、両腕と……何が何でも踏ん張るために、両足に総魔力の七割を使って纏った。
(思い切った戦法だな)
纏う魔力量が増えれば、壁は当然厚くなる。
魔力の硬化も出来るため、レイの斬撃を弾き返すことも不可能ではなかった。
「はっ……うぼぁ!!!???」
三年生の男子生徒が取った選択は、決して悪くなかった。
寧ろ、レイに勝つためには今選択できる、最善の案だった言える。
レイが……ただの脳筋ガールであれば、勝利の女神は三年生の男子生徒に微笑んでいたかもしれない。
「一言、言わせてもらうと、顔に出過ぎです」
爆速ダッシュから先日と同じく斬撃を繰り出そうとする……そこまでは同じだったが、レイは対戦相手の表情から、何か秘策があると察した。
そして大剣を振り下ろすと見せかけ、地面に斬り立てた。
そのまま空中で回転しながら脚に魔力を纏い、三年生の左肩を蹴り抜いた。
「ッ~~~~~!!!!」
回転力が加わったことで、身体強化しか使っていなかった三年生の肩は、完全に砕けている。
もう左腕は使えない。
そんな状態で……目の前の怪物に勝てるのか?
自分に問いかけ、その答えは直ぐに出た。
「降参、します」
最後の大舞台、目の前の怪物に一矢報いようと……上手くいけばそのまま沈めようと考えていたが、その策が原因となり、勝負は一撃で終わってしまった。
これは盛り上がれる内容なのか?
先日思った疑問が再び浮かび上がってきたが、直ぐにそんな事はないのだろうと理解させられる。
先日と同様に、明らかに鼓膜を破りにきてるだろと思える歓声が響き渡たる。
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