三百一話 彼女を除けば、世代最強の男

「いや~~、マジで強くなってるな」


「そうね。精神面? が随分成長したわね」


二回戦目……ドラングは無事に優位性を保ったまま、試合に勝利。

体力を大きく消耗する結果となったが、問題無い。


(これで、久しぶりに戦えるな)


本日は個人戦の二試合目を終えたら、そこで終了。

魔力や体力の消耗を気にする必要はない。


それは相手も解っており、試合は非常に激しい攻防になった。


「……崩し甲斐がある、といったところだな」


レイもドラングの評価を改めて、大きな舞台で戦う価値がある存在だと認識。


その後、その日最後の試合が行われ、ジャン・セイバーの勝利で幕を閉じた。

そしてアラッドの元にフールが訪れ、レイたちへの挨拶もそこそこに、良い試合を行った息子を褒めた。


「アラッド、明日も油断するなよ」


「抑える必要はないわ」


母からも応援の言葉を貰い、その場で別れた。

勿論、フールはその後直ぐにドラングの元へと向かった。


「よし、どこか店に入って夕食にしよう」


レイたちと一緒に店探しを始めるが……あまりにも人が多い。


「これは、予約しておくべきでしたね」


「そうだね。はぁ~~、すっかり忘れてたよ」


学生同士の試合とはいえ、非常にハイレベルならバトルが行われるため、王都以外の街から多くの者たちが訪れる。

他国からやって来る者もおり、この時期は宿も料理店も嬉しい悲鳴を上げている。


そんな中、店の外で客への案内などをしている店員がアラッドたちを発見し、個室が空いているのでどうですか? と提案してくれた。


「この店で食べたことあるけど、絶品よ」


「なら、ここにしましょうか」


全員の懐事情など聞かず、アラッドはそこそこお値段が高い店で夕食を食べると即決。


ただ、レイたちも名家の令息、令嬢なので高級料理店に入ることに躊躇いはなかった。


そして個室に案内されたアラッドは、気になるメニューを全て頼んだ。

レイやベルも同じような感覚で頼み、十数分後……テーブルには多くの料理が運ばれて来た。


「本当に良く食べるわね。レイ、あなた今日はあまり疲れていないんじゃないの?」


エルザからの問いに、レイはイエスと返す。


「そうだな。ただ、良い匂いを嗅ぎ取ってしまうと、自然とお腹が空いてしまうだろ」


「否定出来ないけど……食べ過ぎには気を付けなさいよ」


それだけ言うと、これ以上話しても意味ないと思い、エリザも舌が唸る夕食を食べることに集中。


令嬢とは、自身の美や可愛さにプライドを持っている者が多く、食べ過ぎることを嫌う。

何故なら、スタイルが崩れるから。


容姿が良くとも、そこが崩れれば……総崩れするのは目に見えている。

ただ、レイは普通の令嬢と違い、常日頃から訓練という運動を欠かさない。


つまり……殆ど摂取したカロリーを気にする必要がない。


「そういえばアラッド、フローレンスさんの前に、ジャンさんには絶対に勝てそうなのかい?」


アラッドがフローレンス・カルロストと戦う前に超えなければならない壁、ジャン・セイバー。


フローレンスという光が強過ぎる為、あまり目立っていない存在……なんて小さな存在ではない。

フローレンスがいなければ、間違いなく世代最強はジャン・セイバー。


同世代の殆どがそう思う程の実力を持っている。


ただ……アラッドにとってジャン・セイバーはそこまで倒したいと強く思う相手ではなく、魅力を感じる相手でもない。


「……勝てるな」


「ふふ、そうだね。うん、訊いた僕がバカだったよ」


「いや、別にジャン・セイバーを嘗めてる訳じゃないぞ。ただな……やっぱり、そこまで戦ってみたいと思う相手じゃないんだよな」


子供の頃から面識がある強者、自分を憎み敵意を向ける身内。

目的のために……若干気に入らないと感じる思いがあるから、倒すと決めた最強の上級生。


そういった一ミリも感情や関係を持たない相手だからというのもあるが、そんな理由を除いても……あまり食指が動かない。

とはいえ、アラッドの中に油断はなかった。

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