三百話 それはそれで好都合

アラッドの二回戦目の相手は魔法使いの女子学生。


一対一ではやや不利な戦闘スタイルだが、決して不得意ではないのだと、一回戦の戦いを見て把握している。


(魔法は……使わずに、今回も剣と体技だけで楽しもう)


魔法には魔法を、という気持ちが湧いてこなかった訳ではないが、天辺で戦うかもしれない相手のことを考えると、なるべく手札を隠しておきたい。


「……始め!!!!」


審判の合図が降り、二回戦目がスタート。


その結果は……一回戦目と同じ様な流れで戦況は進み、アラッドの勝利で幕を閉じた。

アラッドはロングソードに魔力を纏い、飛んでくる魔法を次々に切り落とした。


女子学生は殆ど溜めなしでボール、アロー系の魔法を一度に複数放ち、アラッドをハリネズミ状態にしようとするが、全て切り落とされるか、躱されてしまう。


防御や回避にだけ集中するのは良くないと思い、アラッドも鋼鉄の剛剣・改に纏った魔力を突き放ち、斬撃にして飛ばす。


その鋭い刺突、斬撃を女子学生はランス系の攻撃で相殺。

もしくは壁を生み出して防御。


意外にも遠距離での戦いが繰り広げられ、観客たちはこれはこれで面白いと思い、盛り上がる。


(攻撃力はシーリアより上で、エリナより下って感じだったな)


数分ほど撃って放って躱し斬り捨ててを繰り返した結果、アラッドの中ではそういった評価となった。


「お疲れ」


「おぅ」


「ったく、後で恨まれても知らねぇぞ」


「……多分、それはないと思うぞ」


アラッドが自分の攻撃を躱し、斬り落とす。

そして遠距離攻撃を放ってくる……女子学生は間に合わなければ、防ぐという選択しか残っていない。


剣士であれば、そこから近距離戦に持っていくのがベターな戦法。


勿論、そういった戦闘パターンの対策はしてある。

だが……アラッドは迫ってこなかった。


その瞬間、女子学生は一気に沸点が上昇……しそうになったが、相手が嘗めてくれているのであれば、それはそれで構わない。

その隙を突いてぶっ潰すという思考に切り替え、戦闘を続けた。


「なんでそんなの解るんだ?」


「目を表情を見てれば、こう……なんとなく」


「ふ~~~ん。俺もそういうところ磨かねぇとな」


戦闘の際、相手の表情を見て何を考えているのか。

それを読むことが出来れば、優位に戦況を運ぶことが出来る。


リオはそういった部分が自分に足りないと理解しており、アラッドがそういった事まで出来ることに、素直に感心した。


「んで、次の戦いで勝てば兄弟対決になるな」


「そうだな」


入場する通路が違うため、通路でバッタリ会ってしまうことはない。


「どうよ……実現しそうか」


「ん~~……この一戦で、一回戦目の時みたいに戦うことが出来れば、上がってくると思うな」


この試合に勝てば、念願の目標であるアラッドをぶっ倒すことが出来る。

そういった思いが前に出過ぎて、目の前の対戦相手を冷静に見れていなければ、兄弟対決が消えてしまう可能性もある。


(対戦相手を視た感じ、倒せない相手ではない筈だ)


これからドラングが戦う相手の試合もしっかり観ており、正直なところ……順当に行けばドラングが勝つと、兄は思っている。


それは会場を行ったり来たりしているフールも同じ。


(魔力や武器を扱う技量では負けてない筈だ……絶対に上がって来いよ)


唯一、相手が双剣使いという点だけ不安ではあるが、それでもドラングが勝ち上がってくると信じ、少し速足でベルたちの元へ戻る。


「っ…………やや、ドラングが押してるか」


手数に関しては対戦相手の方がやや上回っているが、戦況はドラングの方が優勢。

しかし、少しでも気を抜けばひっくり返る。


(火事場の馬鹿力、か? 表情から見て全力なのは一回戦目と変わらないが、少しパワーが上がってる気がする)


ドラングにとって、絶対に勝たなければと強く想う一戦。

しかし、それは対戦相手である男子学生も同じ心境。


自分の価値を騎士団に示す為にも、死ぬ気で試合に挑んでいる。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る