二百九十九話 思ってたより化け物
「全く底を見せなかったね」
「だな。あれで俺たちと二つしか変わらないんだよな……で、どうよ。アラッド」
「……リオたちは、俺が言うなよって思うだろうけど、十分化け物だな」
アラッドが前置きをしていたが、リオたち全員心の中で「お前が言うな」と呟いた。
「相当レベルが高いな……多分、四十を超えてるんじゃないか?」
「四十っ!? それは、さすがに……いや、あり得ない話じゃないか」
「ベルの言う通りだ。フローレンスさんはまだ騎士団に入団していないが、強力なモンスターの討伐に参加したことが何度もあるそうだ」
モンスターとの戦闘は他の生徒と比べても頭一つか二つ抜けており、実戦での経験値はアラッドに負けていない。
当然そうなってくると、身体能力でアラッドが圧倒するのは……少々難しくなってくる。
(おそらく、身体能力はトントン……いや、スピードだけは勝つか? だが、差は大きくないだろう)
レイの様に、特別な肉体を持っている訳ではない。
それは情報として仕入れているが、思った以上に見た目に似合わない身体能力を持っていることは確かめられた。
「まさにエリートって訳だな」
「エリートって言うか、もうそういう枠に収まらない人だよな。んで、勝てそうなのか?」
「やってみないと分からない、という気持ちがあるな」
「「「「「「っ!!??」」」」」」
褒めるだけで止まらず、その様な言葉を吐いたアラッド。
リオたちはまさかの回答に、驚きを隠せなかった。
「いや、え……マジか?」
「驚きすぎだろ。言っただろ、あの人は化け物だって」
「そりゃそうだけどよ。本当に、勝率は五割ってところなのか?」
「…………騎士らしい戦い方をすれば、そうなるかもな」
正直なところ、フローレンス・カルロストの強さはアラッドの予想を少々上回っていた。
(糸は使えばあの手この手で問題無く倒せると思うが……あいつ、下手な教師や騎士よりも断然強い)
日ごろ鍛えている体技や剣技に自信がない訳ではない。
ただ……校内戦や大会の一回戦で戦ったように、圧倒するのは難しい。
それがアラッドの素直な感想だった。
(…………関係無い。アラッドと戦うには、勝たなければならない)
フローレンス・カルロストが自分よりも強いことなど、レイは最初から解っている。
それでも……公式の場で、アラッドと本気で戦えるのは今回が最初で最後のチャンスかもしれない。
故に、同じく個人戦のトーナメントに参加しているレイの眼に絶望などなく、燃え滾る獄炎が宿っていた。
「それか、殺す気で戦えば良い感じに攻められる……と、思う」
「つまり、結局はアラッドが勝つ。そういうこと」
勝負内容がどうなろうとも、最後はアラッドが勝つ。
そう、ヴェーラが断言した。
いや、断言してしまった。
周囲には当然他の観客たちがおり、今もリングで行われている戦いの観戦に熱中している者たちが多いが、大なり小なりアラッドたちの会話が耳に入っている観客はいた。
その観客たちからすれば「何を夢見てるんだ、この下級生たちは」と思わざるを得ない。
それでも、アラッドをそこら辺の者たちよりも深く知っているヴェーラたちからすれば、それでもアラッドが負けるとは思えなかった。
「負けるつもりはないが……ふふ、嬉しいことを言ってくれるな」
良い友人を持った思いながら、そろそろ自分の番が回ってくるため、入り口の方へ向かう。
(予想より強かろうが、負ける気は一ミリもない。その気持ちさえ持っていれば十分か……まっ、決勝にフローレンス・カルロストではなく、レイが上がってくる可能性も捨てきれないけどな)
何はともあれ、フローレンス・カルロストの試合を観終わった時よりも気持ちが軽くなった。
表情にも自然と笑みが零れ、最高のコンディションでリングの上に上がることが出来た。
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