二百九十二話 イメージが浮かばない

(うわぁ……容赦ないな)


一瞬……本当に一瞬で、第三試合は終了した。


身体強化を使って全力ダッシュ。

そして力が入った……それでいて無駄がない斬撃が放たれた。


対戦相手の三年生は、その斬撃に反応することは出来た。

ロングソードでガードし、本能的に身体強化のスキルを使ったお陰で、体中の骨という骨がバキバキに折れることはなかった。


それでも、素の身体能力ではレイが圧倒的に勝っている事もあり、対戦相手は場外に吹き飛ばされた。


ほんの少しだけ空気を静寂が支配した後、大歓声が上がった。

思わず耳を塞ぎたくなるような大歓声だが、これはこれで衝撃的な光景であり、闘技場のボルテージが上がるのは必然。


しかし、まだ勝敗が決まった訳ではない。

リングの外に落ちたから負け、では色々と戦い方が変わってしまい、客受けも悪い。


校内戦と同じく、リング外に落ちても、戻ることは可能。

ただし、審判が続行不可能と判断すれば、強制的に試合は終了。


そしてレイが思いっきり吹き飛ばした相手だが……ギリギリ戦えることには戦える。

流石、校内戦を勝ち抜いて大会に参加出来る実力はあると言えるだろう。


(……甘かったか)


対戦相手がリングの外に落ちれば、追撃は不可能。


ただ……戦意や殺気を放ってはいけないというルールはない。

レイは全くそういった駆け引きは意識していないが、壁に叩きつけた相手が、思っていたよりもダメージを受けていない。


良い一撃だと思った攻撃は、まだまだ甘かった。

そう反省しつつ……次は腕力強化のスキルも使い、絶対に叩き伏せようという決意が思いっきり漏れ出していた。


「ッ!!!!!!!」


そんな美しい容姿に似合わない迫力全開のレイの姿を見て……対戦相手は自分がロングソードごとぶった斬られる光景が脳裏をよぎった。


(な、なんだよ……今の)


一応、大会では命を奪う様な攻撃は禁止されている。

大怪我を負っても、最高クラスの回復魔法の使い手がいるので、腕や足が切れても問題無い。


しかし……それだけ回復要員が優秀だと分かっていても、肩から斜めにバッサリと斬られるかもしれない……そんな攻撃を食らえば、もがき苦しむのは目に見えている。


「どうした、まだやれるのか!」


テンカウントというルールはないが、審判がもう戦えないと判断すれば、試合は強制終了。


露骨すぎる時間稼ぎは出来ない。


「あ、ぁ……こ、降参します」


「分かった。勝者! レイ・イグリシアス!!!」


審判が勝者を宣言した瞬間、再び会場に空気が割れんばかりの大歓声が起こった。


降参した生徒は確かに数か所、骨に罅が入っていた。

まだ戦おうと思えば戦える状態だった。


しかし……レイの無意識の圧に心が折れ、リングに戻ってからどうやってレイに勝つか……全くイメージ出来なかった。


(これで、終わりなのか)


大会に出場し、騎士団にアピールできる最大にして最後のチャンス。

それが一瞬で終わってしまった実感した三年生は……アドレナリンが切れて罅の痛みを強く感じ始めたこともあり、自力で立てなくなった。


「容赦ない一撃だったな」


「そうだね。でも、結果的に考えてあれが一番体力と魔力を消費しない戦い方だよ」


「……それもそうか」


今回の様に一瞬で決着が着くのは珍しいが、それでもどの戦いも五分も続くことは珍しく、十分も続いた試合は過去を振り返ってもない。


今日一日でタッグ戦も行うとはいえ、必ず殆どの出場者が第二試合目を行うことになる。

それを考えれば、体力や魔力の消費を抑えておくことに越したことはない。


「アラッドは、もうどうやって戦うか決めてる?」


「校内戦では今回のレイ嬢みたいに速攻で終わらせてたけど……言ってしまえば、これは祭りだろ」


アラッドの言葉らしく、闘技場の中や周辺には大量の出店が出ており、お祭り状態と言っても過言ではない。


「だから、俺は少し楽しもうと思ってる」


「なるほど。それはそれでアラッドらしいね」


人によっては嘗めてると思われるかもしれないが、本人の心にその様な傲慢な気持ちは一ミリもない。


ーーーーーーーーーーー


新作「禁断の恋にカオスをぶっ込む? 期限付きの男子高校生と美人教師の危ない関係」の投稿を始めました。


読んでくれると幸いです。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る