二百九十三話 騎士道か、傲慢か
レイの瞬殺劇が終わった後も、大会は盛り上がりを見せ……前大会の覇者であるフローレンス・カルロストはシードなので試合はせず、第十七試合目であるアラッドの番がやってきた。
(ふぅーー……さすがにちょっと緊張するな)
先に相手選手が呼ばれ、アラッドはその次の通路を通り……リングへと上がる。
(うわぁ~~、慣れてないとこれは……はは、きついな)
運だけで大会に参加することは出来ない。
そしてアラッドが一年生でありながら校内戦を勝ち抜いた。
加えて、フールの息子ということもあり、観客たちの多くはアラッドの強さに注目している。
「…………」
(ど、どう見ても俺のことを睨んでるよな)
特別観客席で見ている貴族たちもアラッドの強さを注目している中、対戦相手の上級生は偶々……とは思えないぐらい、鋭い眼光をアラッドに向けていた。
アラッドが騎士の爵位を得るためだけに、学園に入学したという話は他校にも広まっており、真剣に騎士団への入団を目指している者たちからすれば、やはりふざけんな!!! と怒鳴りたくなるような存在。
アラッドの対戦相手は今すぐにでも、どういう性根をしてるんだと問いたい気持ちを必死に抑え……代わりに射殺さんばかりの眼光を向けていた。
「それでは……始め!!」
審判が開始の合図を行った瞬間、上級生は速攻で襲い掛かってきた。
(速攻で倒すつもりか?)
強化系のスキルを利用し、それなりに質が高い槍を使っての連続突き。
開幕から息つく暇もなく鋭い突きが繰り出される中……アラッドは一先ず、身体強化を使わずに上級生の攻撃を対応していく。
(技術力は流石の一言だな)
丁寧に急所を狙う技術や、偶に入れてくるからこそ効くフェイント。
途中から風の魔力も纏い始め、アラッドは対戦相手の攻撃や技術を素直に賞賛していた。
(槍もそれなりに扱ってるけど、技術力では負けそうだな)
なんてことを考えながら、冷静に攻撃範囲を見極めて躱し、鋼鉄の剛剣・改で受け流していく。
元の鋼鉄の剛剣では成長したアラッドの体格には合わない為、使える素材を再利用し……尚且つ、そこそこ品質が高い素材を組み合わせ、リンがアラッドの為に全力で造り上げた。
(……止めとこ)
対戦相手が回転しながら薙ぎ払いで攻撃しようといったタイミングで、アラッドは今……思いっきり背中を蹴れば倒せる。
本能的にそう思ったが、それは勿体ないと感じ、緊急停止。
因みに体を回転しながらの薙ぎ払いは確かに強力だったが、アラッドはブリッジで見事回避。
直ぐに体勢を立て直し、今度はアラッドが攻め始める。
そうはさせまいと気張る上級生だが、一応身体強化を使って身体能力を上げたアラッドは容易に連続突きを掻い潜り、一気に懐に入る。
「クソがッ!!!」
槍使いの上級生は力で無理矢理対抗しようとするが、それはそれで望むところと燃え上がるアラッド。
鍔迫り合いの結果、上級生はリングギリギリまで押し飛ばされた。
「ぐっ!!!」
ギリギリのところで踏ん張り、リングアウトにはならなかった。
「っ……ふざけてんのか!!!!」
上級生は押し飛ばされた瞬間、追撃がくると覚悟していた。
しかし、アラッドが追撃を行うことはなく、押し飛ばした位置から動いていなかった。
これを騎士道精神らしい態度と取るか、それとも相手を嘗め腐った上から目線な態度と捉えるか……槍使いの上級生は、頭では既にアラッドが口だけ権力だけ野郎ではないと理解していた。
ただ……完全に鍔迫り合いに押し勝ったのに、追撃に来ない。
その行為は上級生のプライドを大きく刺激した。
(技術が高いのも良いが、こういう荒々しい攻撃も良いな! 腕力上がってるし!!)
完全に戦いを楽しんでいるアラッドは対戦相手の限界を戦いながら見極め……開始から約四分後、ようやく試合を終わらせた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます