二百九十一話 行ったり来たり忙しい
「なるほど、こうなったか」
大会当日、個人戦のトーナメント表が発表された。
トーナメントは上と下に別れており、アラッドとドラングは下。
レイとフローレンス・カルロストは上。
参加数が合計で五十名ということもあり、トーナメント表には「その位置の人はちょっとズルいんじゃないか?」と思う人がいるかもしれないが、そこは運次第。
そんな中……アラッドが下でフローレンス・カルロストが上。
その位置関係だけは最初から分けられており、二人が順調に勝ち進めば、決勝でぶつかる。
「むぅ……アラッドと戦うには、どうやら決勝まで進まなければならない様だな」
「みたいだな」
レイがアラッドとぶつかるには、前大会の覇者であるフローレンス・カルロストを倒さなければならない。
対して、アラッドも決勝戦に辿り着くまで前大会で三位という好成績を収めた実力者、ジャン・セイバーを打ち破らなければならない。
因みに……両者がミスをしなければ、アラッドとドラングは三回戦目でぶつかる。
そして国王陛下から有難いお言葉が告げられ、直ぐに第一試合目が始まる。
「久しぶりだね、アラッド」
「そうですね」
試合の激励として息子の元に訪れたフール。
何かアラッドの為になる言葉を伝えられたら……と思ってはいたが、表情を見て特に言うことはないと感じた。
「……大丈夫だとは思うけど、油断はしないようにね」
「はい、勿論です」
ありきたりなアドバイスだけを告げ、今度はドラングの元へ向かった。
この後フールはドラングとアラッドよりも長く話……ダッシュで別の会場へ走る。
理由は、シルフィーが参加している大会が別の会場で行われているから。
時間的にまだ間に合いはするが、それでも娘の晴れ舞台を見たいフールは妻たちと急いで別の会場へ向かう。
「…………」
「ふふ、大会での戦いもアラッドにとっては、校内戦と大差ないかい?」
「いや、そんな風には思ってないぞ」
現在アラッドたちは立ち見で生徒たちの試合を観戦していた。
「校内戦を勝ち抜いて大会に出場するレベルともなれば、周囲と比べて頭一つか二つは絶対に跳び抜けている。そんな実力者同士の戦いだ……観ていてつまらないと思うことはない」
ガルシアとリンが行う様な模擬戦と比べれば数段劣るが、第一試合と第二試合……どちらも観て損はないと思える内容だった。
そし遂に第三試合目……アラッドやドラングと同じく、一年生ながらに個人戦の大会に出場する……レイの出番がやってきた。
「「「「「「うぉおおーーーーーーーーっ!!!!!」」」」」」
すると、観客たちが大歓声を上げる。
「……とんでもない歓声だな」
「アラッドは今年から入学したから知らないと思うけど、レイは中等部の頃から大会で活躍してたんだ」
「なるほど。既にスター選手……って感じか」
周囲の観客たちの表情を見る限り……殆どの者たちがレイの勝利を願っている。
(対戦相手は気の毒としか言えない状況だが、この状況でどこまで動けるかも、騎士として重要な要素なのかもな)
レイと相対する他校の出場者は三割ほど緊張しているが、残り七割ほどは冷静であり……丁度良い状態。
今の自分なら、目の前の怪物とも渡り合える。
そんな自信が湧き上がるほどのベストコンディション。
大会では校内戦と違って自前の武器を扱う。
内容次第では、大怪我を負うかもしれない。
腕をぶった切られるかもしれない……ただ、その逆もあり得る。
男が使う武器はロングソード。
それに対し、レイが扱う武器は大剣。
スピードでは自分に分がある。
そんな一般的な視点から解る情報に……生まれてきた自信が更に大きくなる。
「それでは……試合、始め!!!!」
審判の大歓声の中でも良く通る声により、第三試合が始まった。
その結果……実力者たちが集まった大会であるにも関わらず、校内戦と同じ内容が繰り返された。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます