二百六十九話 アラッドだけ行う

Sクラスの担任であるアレクが登場し、他クラスの生徒は解散。


そしてまずはアレクが軽く自己紹介を行い……そして生徒の番になると、アラッドだけが自己紹介を行った。

何故アラッド一人だけなのか?

それは単純に……高等部からの入学で、Sクラスに入ったのはアラッドだけだから。


(四分の一ぐらいは、俺のことが気に入らないって感じだな)


自己紹介をクラスメイトに行った際、レイたちは勿論好意的な視線を向けており、ドラングとその取り巻きが否定的な視線を向けていた。

残りの生徒は特にアラッドに対して悪感情はなく、噂の人物がやって来たと、少しアラッドに興味を持っていた。


「それじゃ、本格的な授業は明日からだ。寝坊するなよ」


そう言い終えると、アレクは教室から出て職員室へと向かった。


「アラッド、久しぶりに模擬戦をしよう!!」


「ん~~、そうだな。まだ昼ご飯には早いし、少し体動かしましょうか」


本日は特に授業なしなので、まだ時間は昼前。

昼食を食べるには早い時間であり、アラッドはレイからの提案を受けた。


(必然的に俺はレイ嬢たちと学園にいる間は行動することになると思うが……ちょっと申し訳ないな)


アラッドはレイが自分に話しかけようとするまで……一人の人物が、レイに声を掛けようとしていたのを見逃していなかった。


(俺の勘違いじゃなかったら、そういうことだよな。そういうことじゃなくても、絶対に少なくとも気になってるよな)


そう……先程までアラッドに否定的な視線を向けていた生徒たちの一人であり、アラッドの弟であるドラング。


(邪魔したい訳じゃないんだが、せっかくの好意を無駄にするのもな)


個人的には弟の恋心を応援するアラッドだった。


「さて、軽くやろうか」


「えぇ、軽くにしておきましょう」


学園内の訓練場に向かうと、そこには既に他クラス、他学年の生徒たちがいた。


アラッドは皆訓練熱心だな~と思いながら軽く準備運動を行う。

その間……当然、レイたち以外の視線がアラッドに集まっていた。


実技の試験で、試験監督が扱う木剣を折った。

そんな話が今まで一度もなかったため、否が応でも話は広まり……大勢の生徒がアラッドに大なり小なり興味を持っていた。


「二人とも、あまり無茶をしないようにね」


ベルが二人にそう伝えると、アラッドとレイは小さく頷き……互いに接近。

二人の木剣が力強く衝突した。


「……力、以前より強くなりましたね」


「まだまだ未熟だがな」


レイの言葉に、アラッドは頭の上にはてなマークを浮かべた。


(これで未熟って……冗談では?)


レイに世辞を送っている訳ではなく、本気で冗談で言ってるのでは? と思うアラッドだが……本人は全く本気ではない。


(特異体質というのは分かってたが、それだけに頼った鍛え方はしてないんだろうな)


最初の一撃による鍔迫り合いは……互角で終わり、二人ともその場から跳び退き、今度はスピード重視の剣戟戦に移る。


お互いに木剣を振るう、攻撃を躱して防御する。

それを何度も繰り返し……アラッドは改めてレイが以前と比べて成長している。


(スピード重視の攻撃でこの重さ……俺も力には自信を持てるようになってきたが、これは危ないな)


二人とも、まだ強化系スキルを使用していない。

それらを本気で使用すれば結果は変わってくるだろうが……アラッドは今の自分のレベルにレイが追い付けば、絶対に力では勝てないと感じた。


(以前戦った時より、剣筋も洗練されている……婚約者にするなら、自分より強い人を好みそうだし、ドラングは大変だな)


久しぶりにしっかりと見たドラングは、学園に入学してから成長し続けていると一目で解った。

ただ……こうして傑物令嬢と手合わせしていると、本気のドラングが本気のレイを倒せる勝算が、決して高いとは思えなかった。

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