二百六十八話 贔屓してるわけではない
(あの人が、担任の先生か)
教室に入ってきた一人の教師……その人の登場で、アラッド以外の全員の表情が強張った。
(強いな……鑑定は使えないけど、視なくても解る。実技試験の時戦った教師よりも強いのは確実だ)
自分が本気を出したら……勝てるのか?
そんな疑問がアラッドの頭に浮かんだ。
(おいおい……とんでもないね。まだ十五歳の学生なのに、僕にそんな目を向けるか……もう、現時点で一端の戦士……いや、一端なんて言葉は彼に失礼だね)
教室に現れたSクラスの担任教師……アレク・ランディードはアラッドの目が、戦闘者としての眼だと気付き、脳裏に学園長から伝えられた言葉を思い出した。
「すいません。こいつらが、俺がパロスト学園に入学してきた理由がどうも気に入らないようで……だから、文句があるなら掛かって来いと彼らに伝えました」
「なるほど。それで、今目の前の惨状が起きたと」
「その通りです」
「そうか……それなら仕方ないね。ただ、個人的には私闘を行う場合、決まられた場所で行ってほしい。教室は頑丈に作られてはいるけど、君レベルが本気を出すような場合があれば、壊れるてしまう可能性は十分あるからね」
アレクはアラッドの行動に対し、一切咎めることはなかった。
「あ、アレク先生!!! こいつの身勝手な行動を許しても良いのですか!!!」
「……確かに、彼は本来入学する生徒と比べて、随分珍しい理由で入学してきた。けどね、別に身勝手な行動ではないんだよ」
アイガスは、速攻で担任教師に自分の考えを否定されるとは思っておらず、衝撃で固まってしまった。
「アラッド君の入学試験は、他の生徒たちと同じく公平に行われた。実技試験なんか、最初の衝突でディート先生の木剣を折ったんだよ。凄いよね」
「先生、あの衝突では自分の木剣も折れました」
「そういばそうだね。でも、凄いことには変わりないよ」
アレクの言葉通りだった。
身体能力自慢のレイでも、入試の実技試験を行う際、担当してもらった教師の木剣を折ることなど出来なかった。
レイが入学した歳は十二歳であり、アラッドは十五歳。
歳の差を考えれば仕方ない……そう思うかもしれないが、この結果にはレイ以外も全員衝撃を受けていた。
(その噂もチラッと聞いたけど……やっぱりとんでもねぇな、アラッド。担当していた教師に、そこまで本気を出させたってことだもんな。相変わらず色々とぶっ飛んでるな)
(やっぱりアラッドは色々とおかしい……でも、そこが面白い)
リオ、ヴェーラだけではなく、他のメンバーもアラッドの凄さに感心。
ただ……アラッドという存在が気に入らない者たちにとっては、そう簡単に信じられない事実。
「とにかく、アラッド君の目的を学園長は了承している。だから、本来君たちは学園長に文句を言わなければならないんだよ」
アレクが口にした内容は、一ミリも間違っていないが……それを十五歳の子供たちが納得出来るかどうかは、別の話。
そんなことはアレクも解ってはいるが、断言しておかなければならない。
「なのに、アラッド君はわざわざ君たちの文句を吐き出し、事実を覆すチャンスをくれた……って、流れだよね」
実際に見ていた訳ではないので、確信はないため……チラッとアラッドの方に目を向ける。
ちょっと心配そうな顔をしているアレクに対し、アラッドはそうですと頷いた。
「だから本来は、チャンスをくれてありがとうございます、って言うべき立場なんだよ」
アラッドを贔屓している訳ではなく、ただただ事実だけを述べるアレク。
「そして、君たちはそのチャンスをものに出来なかった……というわけで、Sクラスの生徒じゃない者たちは自分のクラスに早く戻りなさい。今回だけは罰も何もない……今回はね」
次はないよ。
そう最後に口にしたアレクだが、この中で何人の生徒が理解出来ているだろうか……ひとまず、朝一の騒ぎはここで終了した。
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