二百六十七話 悪夢を思い出す
「ほら、どうした。もしかして……剣がないから戦えない、なんて腑抜けたことを口にするつもりか?」
アラッドが軽く煽ると、アイガスを筆頭に……多くの生徒がアラッドに対してブチ切れた。
「ッ!!!」
怒鳴り声を上げることはなく……それでも怒気を抑えることなくアイガスはアラッドに向かって殴り掛かった。
(へぇ、剣だけって訳じゃないんだな)
アイガスの動きから、ある程度素手の状態でも動けることを把握。
とはいえ、普段からガルシアたちと模擬戦を行っているアラッドからすれば、遅い。
「なにッ!?」
渾身の右ストレートを片手で受け止められた事実に驚きを隠せない。
「どうした、それで終わりか?」
「くっ、ふざけるな!!!」
強化系スキルなどを発動し、力で押し切ろうとするアイガス。
しかし、アラッドも一応身体強化のスキルだけ発動。
「どうした、お前たちも俺が学園と契約した内容に文句があるんだろ。こいよ」
余っている手で手招きすると、当然教室の外にいた生徒たちがぞろぞろと中に入ってくる。
「強引な手段だね……アラッド、あまり虐めては駄目だよ」
「分かってる。安心しろ、ベル。ちゃんと手加減する」
二人の会話を耳にし、余計に怒りのボルテージが上がる他クラスの生徒たち。
そんな同級生の反応をよそに、ベルたちはやれやれといった表情でアラッドの周りから離れ、教室の壁側で待機。
そして多数の生徒たちが一斉にアラッドを襲おうとしたが……地面を蹴った生徒たちは、全員思いっきり転び、顔面を床に強打した。
「いっ!?」
「がっ!? あ、足が」
「ど、どういうことだ」
一人だけではなく、多くの生徒が一度に転んだ現象に驚きを隠せない他クラスの生徒たちだが、そんな中……未だにアイガスはアラッドを力で押そうとしていた。
「ぬぅぅぅああああああああっ!!!!」
「悪くはないけど……でも、それまでのラインって感じだな。お前、レイ嬢より力弱いだろ」
「っ!?」
「だったら、力勝負で俺に勝つのは多分難しいと思うぞ」
アラッドがアイガスに軽口を叩いている間も、AクラスやBクラスの生徒たちがアラッドに殴り掛かろうとしているが、周囲の動きを完全に把握しているアラッドはそれらを全て糸で対処していた。
「な、なんなんだよこれ!!!」
「おわっ!?」
「ぐげっ!」
「ち、近寄れねぇよ」
アラッドに近寄って殴り掛かろうとすれば、見えない力で転がされる。
もっと冷静になって、感覚を研ぎ澄ませれば学生でも、アラッドが何をしているのか見える。
確かにアラッドが生み出す糸は細いが、絶対に見えない細さではない。
ただ……怒りに身を任せて動く生徒たちは、自分たちを転がす力の正体が解らない。
(もういいかな)
アラッドはアイガスの自分を押そうとする力を利用し、転ばせた。
「うおっ!?」
そしてアイガスが地面に転んだ直後、少し強めに顔の横を踏みつけた。
「っ!?」
「これが当たってたら、お前は多分意識を失ってただろうから、俺の勝ちで良いよな」
仮にアラッドが踏みつけをわざと外していなければ、頭蓋骨を砕いて殺していた可能性がある。
「それで……先に言っておくけど、お前らがころころと転んだ要因は、俺の糸の力だ。一人ぐらいは、俺が授かったスキルが糸ってのを知ってるだろ」
この場にそれを知る者はベルたち以外にそれなりの人数がいた。
当時の場面を覚えている者も数人いた。
だが……それ以降、アラッドが公の場で糸を使うことはなかった。
それ故に、令息たちは忘れていたのだ。
その糸が……アラッドに下手に絡んだ令息が、どういった恥を与えたのかを。
「後、その糸でお前らの体を切断することも出来た。この意味……解るよな」
「「「「「「っ!!!」」」」」」
アラッドに何度も転ばされた生徒たちは、背筋が凍る……そんな感覚を、リアルに体験した。
本人がその気なら……自分たちの手足を切断していた。
そう宣言され、外聞など関係無しに震える者も現れた。
「……これはいったいどういうことなんだい?」
ここで、ようやくSクラスの担任教師が現れた。
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