二百六十六話 本来、相手にする必要はないが……
「ドラングの言う通りだ。どう考えても、お前はふざけている……騎士をなんだと思っているんだ」
一歩前に現れた男は身長が百八十を超えているアラッドよりも更に大きく、横幅も普通ではない、屈強な体の持ち主。
「……一般市民を守る盾である、国家の敵を斬る剣だろ」
「そういった存在を目指すわけでもなく、爵位だけを得ようとする……その考えがどれだけ傲慢で、騎士という存在を見下しているのか解っているのか」
男の眼には軽くアラッドに対して怒りが宿っていた。
(……アイガスの言いたいことも解らなくはない)
一歩前に出た生徒、アイガス・ナストの想いが真剣に騎士を目指しているレイには解らなくもなかった。
ただ……レイは自分の祖父や、アラッドの父親がもし……アラッドが騎士の道に進んでくれたらという想いを今でも持っているのを知っている。
アラッドが選んだ選択は、決して騎士になる道を進むことではなかった。
しかし、騎士の爵位を手に入れれば……それは完全に国とアラッドが繋がっているという証明にもなる。
有事の際には、冒険者であるアラッドを戦力として強制的に利用することも可能。
勿論絶対的な傀儡になる訳ではない……ただ、アラッドも何かしら有事の際には国の戦力になっても良いと考えているので、関係性が悪化することはない。
といった感じで、アラッドを騎士の爵位持ちにさせることで、国にメリットがあるのは間違いない。
とはいえ……そういった大人の事情にまだ十五歳の子供たちが「はい、そうですか」と、納得するのは非常に難しい。
「別に見下してはいないぞ。元騎士の父さんやバイアード様は勿論尊敬している。現役の騎士たちも国の為に動いて……本当に凄いなと思ってるよ」
もっと自由に生きれた方が楽しくないか?
そう思うわなくもないアラッドだが、誰かの為に……国の為に身を捧げられる騎士を、素直に凄いと思う気持ちはある。
「なら、すぐさまこの学園から去れ」
「……安心しろって。三か月もしたら去るから」
お前にそんな権限があるわけないだろ、もう少し考えてから発言しろよ、バカに見えるぞ……と言いたいところだったが、グッと堪えて事実を述べた。
相変わらず、アラッドにはフローレンス・カルロストがどれだけ強くても、絶対に自分が勝つという自信がある。
(フローレンス・カルロストと戦っても、絶対に自分の勝利を疑ってないね……去年の戦いを見る限り、決勝戦でも余力を残している様に思えたけど……まだ全力を見せていないという点では、アラッドも同じか)
初めて八人でのお茶会で出会い、その後も何度か出会って会話をし……その強さを身をもって体験した。
故に、ベルや他の友人たちもアラッドならあの怪物を倒せる可能性が十分にある、という思いが強くあった。
しかし、貴族界隈で基本的にアラッドと交流があるのはベルたちのみ。
アイガスたちはそんな事実を知らず、知ったとしてもアラッドの考えは容認できない。
「話を聞いていたのか? もし騎士という存在に少しでも敬意を抱いているならば、さっさとこの学園から去れ」
(……俺、これでも一応侯爵家の三男なんだけどな)
あまり自身が何々家の人間だからといった理由で、権力を振りかざすのは好きではない。
とはいえ、これはあまりにも嘗められてるのでは? と感じてしかたない。
「おい、聞いたかよ」
「あぁ、聞いたぜ。ふざけてんだろ、あいつ」
「騎士をなんだと思ってるんだ」
教室には入ってきてないが、Sクラスが騒がしいという状況を聞きつけ、他クラスの生徒が廊下でアラッドたちの会話を聞いていた。
(言いたいこと言ってくれるな~)
実際のところは口だけ野郎、親のコネで入学したクズ……等々の言葉が耳に入ってきた。
この現状に、もう面倒だと思ったアラッドはアイガス……その他、自分の存在を気に入らない生徒たちに向かって宣言した。
「騎士を目指す者なら、自分の力で現状を覆してみだらどうだ。今回は特別に俺が相手してやるから」
本来なら、本当に相手にする必要はない。
アイガスたちが抗議をする相手は教員や学園長なのだが……アラッドは面倒なので、今この場で黙らせてしまおうと決めた。
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