二百六十五話 その思いは否定しない
(おそらく、フローレンス・カルロストさんのことだね。あの人なら……アラッドが戦ってみたいと思う実力は確かにあるけど……でも、わざわざ学園に入学したのはなんでだろ)
アラッドが進む道は冒険者。
そして、十五歳になった翌年から冒険者になると宣言していた。
そんなアラッドが何故フローレンス・カルロストと戦って勝つために、わざわざパロスト学園に入学したのか。
ベルやマリアでも、直ぐには思い付かなかった。
「他学園に目標がいるとなると、大会に出ることがとりあえずの目的か」
「そうだな。そういう場じゃないと、バチバチに戦うのは無理だろ」
公式の場でフローレンス・カルロストを倒す。
それがパロスト学園の学園長と契約した、約三か月で学園を卒業する契約。
「ふ~~~ん…………なぁ、アラッド。何か隠してるだろ」
「何って、何をだ?」
「何かだよ」
リオは見た目の割に勘が鋭く、アラッドがただフローレンス・カルロストを倒す為だけ、パロスト学園に入学したのではないことに気付いていた。
「……分かった、分かった。ちゃんと答えるからその鋭い目は止めてくれ」
何かを隠しているということ自体は確信されてしまっているので、アラッドは諦めて自分がパロスト学園に入学した目的を伝えようとした。
その時……残り数人のSクラスの生徒が教室に入ってきた。
「よう、久しぶりだな」
「ッ……なんで、お前がここにいるんだよ!!!!!」
そう、その人物とはドラング・パーシブル。
アラッドの弟にあたる人物。
ドラングが学園入学してからアラッドと衝突することは一切なくなったが、それでもドラングはアラッドに対し、気に入らないという感情を抱いていた。
「……あれだ、騎士の爵位を貰おうと思ってな」
リオやベルたちも何故、冒険者になるはずなのに学園に入学したのか気になっている為、ドラングの質問に答えることにした。
当然…………アラッドの素直な答えを耳にし、全員が固まった。
ベルやレイだけではなく、弟であるドラングも意味が理解出来ずに固まった。
「おい、お前……どういう意味だ」
「そのまんまの意味だ。騎士の爵位を貰おうと思ってな……だから、今年の大会でフローレンス・カルロストを倒すんだ」
アラッドの説明を聞き、ベルたちは頭の中で色々と繋がった。
(そういうことか。おそらく、アラッドは学園と何かしらの契約をしたんだね……あまり良いこととは言えないかもしれないけど、アラッドの実力を考えればそういった契約を結べてもおかしくない)
(なぁ~るほどな……つまり、大会に参加してフローレンス・カルロストを無事に倒せたら騎士の爵位を貰えて、特別に学園を卒業できるって訳か……確か、そういう例がゼロではなかったし、無理な話ではないか)
(えっと……そ、そっか。そういうことか。アラッドは本当に凄いことを考えるな~)
ベル、リオ、ルーンの三人はアラッドの言動から、アラッドの周囲でどういう契約が行われたのかを理解した。
「……はっ!? お前が騎士だと……ふざけてんのか」
「落ち着け。騎士になるんじゃなくて、騎士の爵位を貰うんだ。過去に例はあるからな」
過去に例があるから……だからといって、気に入らない兄が学園にやってきたという現実は……容易に受け入れることは出来ない。
「お前……やっぱりふざけてるだろ」
「…………ドラングからすれば、そう思えるかもな。でも、もう決めた道だ。それに、学生の中で最強の存在には興味がある」
二年生の時に、当時の三年生をも含めた大会で優勝した。
二連覇も夢ではないと言われている最強の学生。
少し調べた結果……決して人として気に入る人物ではないが、学生最強という名誉を持つ存在には、嘘偽りなく少々興味を持っている。
「てめぇ……」
ドラングが怒りでわなわなと震えている中、ドラングと一緒に教室へ入ってきた生徒が一歩前に出た。
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