二百七十話 丁度良い時間まで延々と

レイとの模擬戦の結果は……当然、アラッドが勝利を収めた。


(私も学園に入学し、腕を上げたと思っていたが……そうだな。学園に入学していなくとも、アラッドはアラッドで研鑽を続けていた筈)


レイが努力を積み重ねている間、アラッドも当然のように努力を重ねていた。

ここ数年の間はキャバリオンの制作で忙しかったアラッドが、相変わらず鍛錬をサボるようなことはない。


その事実を考えれば、簡単に差が埋まらないという現実にも納得してしまう。


とはいえ、レイがアラッドと初めて出会ったころと比べれば、その差は確実に縮まっていた。

理由は……アラッドのレベルの上がりにくさが一つの理由。


レベルアップの際には身体能力などが大きく向上するが、その分他者と比べて、レベルアップに必要な経験値が莫大。

しかし、レイにはそのような縛りはなく、学園に入る前からモンスター戦う様になり、身体能力という点に関してはぐんぐんとアラッドとの差を縮めていった。


「よし、次は俺とだ!!!」


「いいぜ。やろうか、リオ」


まだまだ体力が有り余っているアラッドは、続けてリオとの模擬戦を開始。


約五分後、以前手合わせした時と比べて確実に成長しているリオに勝利し……今度はマリアが名乗り出た。


「今度は私といかがでしょうか」


「勿論、受けて立ちますよ」


その次は細剣タイプの木剣を持つマリアとの模擬戦……といった流れで、アラッドは昼食の時間になるまで、友人たちとのタイマンバトルを延々と繰り返した。


「はぁ、はぁ……ふぅ~~~。さすがに、疲れたな」


アラッドと一人が模擬戦を行っている間に、身内で模擬戦を行っていたがアラッドも入れて合計八人なので、誰かしらスタミナ万全な人が残り……アラッドに模擬戦を申し込む。


その申し込みを断るようなことはせず、殆ど休みなしで模擬戦が行われた。


(ルーフの奴、結構前に出るようになったというか……戦いになると、キリっと表情が変わるようになったよな)


初めてルーフと出会った時は、非常にオドオドした内気な男の子だと印象が強かった。

今でも普段は友人達以外の前では内気な態度は変わらないが……以前と比べて戦いになると、表情に自信が現れるようになった。


(元はかなり良いんだし、このギャップにやられる女子生徒は多いんじゃないか?)


アラッドが考えている内容は見事的中しており、ルーフ本人には知られていないが、実はかなり隠れファンたちがいる。


普段とのギャップにやられる上級生も多く、学園内で実は一番ファンが多いのでは? と噂されている人物なのだ。


「七人と何度も戦って、ようやくかい……相変わらず、スタミナも桁外れだね」


「そりゃぁ、鍛えてるからな」


欠かさずトレーニングを行っている。

それも一つの理由だが、アラッドが普段から模擬戦を行っている相手は、同じ攻撃方法ばかりを使う者たちではなかった。


体技をメインにした戦いに、武器を使った戦い。

魔法がメインの戦いを行うこともあり、どんな状況であっても対応し、様々な武器を使える。


「それでは、学食に向かいましょうか」


丁度良い時間になったため、アラッドたちが学園の学食へと向かった。


その道中……アラッドは多くの理由で注目の的となっているので、常に誰かしらの視線を向けられている。


「当たり前なんだろうけど、人が多いな」


「ここの学食は美味しいからね。わざわざ学園の外に出て昼食を食べる人は少ないと思うよ」


パロスト学園に所属する料理人たちは、元々王城で働いていた者や、高級料理店で働いていたシェフたちが在籍している。


そんな凄腕シェフたちが作った料理を嫌う者など、この学園にはいない。


(結構動いたし、やっぱりがっつり肉だよな)


肉がメインの料理を頼み、丁度良い席を見つけてアラッドたちは昼食を食べ始めた。

幸いにも、ここでは面倒な連中に絡まれることなく、リオたちと楽しいランチタイムを過ごすことが出来た。

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