二百四十七話 勝つために、冷静さは捨てない
(アッシュの奴……随分と上手く躱すな)
スピード、反射速度で躱すのではなく、相手の動きを読み……無駄に体力を消費することなく躱す。
相手の動きを読むなど、簡単なことではないが、出来れば非常に戦いやすくなる戦闘技術。
最初はまさかと思ったがアラッドだが、良く見ればそれがまさかではない事が解る。
(俺が思っていた以上に、アッシュの戦闘センスは高いのかもな)
だが、自分の攻撃が全く当たらないという事実に対し……シルフィーはブチ切れて攻撃が荒くなることはなく、一旦落ち着いてアッシュと距離を取った。
「あ、アラッド。今はどっちの方が優勢なのかしら」
「そうですね……躱し方を見る限り、アッシュの方が優勢かと思いましたけど、シルフィーはまだまだ冷静です。まだどちらが優勢と言える場面ではないかと」
「そ、そうなのね」
戦況が気になりはするが……自分の子供たちが己のプライド、意思の為にバチバチに戦っているところを見ると、やはり心配に思ってしまうのが母。
(シルフィーなら直ぐに熱くなって攻撃が荒くなるかと思ってたけど、どうやら俺が思ってる以上にメンタルが鍛えられているみたいだな)
少しドラングに似ている部分がある……と、思っていたが全くそんなことはなく、アラッドはシルフィーの評価を改めた。
(それに、ここで一旦引けたという事は、ちゃんとアッシュが強いと認めてるって訳だ……強くなったな)
妹の成長を喜ぶが……一方で弟の雰囲気が気になる。
「すぅーー……はぁーーー……ッ!!!」
一旦距離を取ったシルフィーだが、呼吸を整えると直ぐに突貫。
今度は偶に大剣の刃の部分を持ち、木製だからこそ行える戦い方で攻める。
(シルフィーが引いた瞬間、アッシュなら狙えたと思ったが、特に負うことはなかった。それに、結局シルフィーの呼吸が整うのを待ち、形勢は変わらずシルフィーが攻めている状態……アッシュは何を狙ってるんだ)
相手の動きを読むのが上手いのは分かった。
だが、攻撃を躱しているだけでは勝てない。
スタミナを削るという作戦は悪くはないが、シルフィーはアラッドを真似てスタミナ強化の訓練を行っており、そう簡単に動きが鈍ることはない。
「……」
この状態を繰り返しても意味がないと判断し、シルフィーは攻撃の途中で身体強化のスキルを使用。
「ッ!?」
急に攻撃が加速したことで、アッシュの予測を破る。
しかしクリーンヒットには至らず、魔力を纏った腕でガードされた。
(これからが本気という訳だね)
アッシュも同じように身体強化を発動し、更に意識を集中させる。
そして今度はシルフィーの攻撃を躱すだけではなく、反撃し始めた。
「ッ!」
木製とはいえ、アッシュの剣捌きであれば……肌を斬ることも不可能ではない。
まだ二人ともモンスターとの戦闘は許可されていないので、条件は五分。
だが、タイプ的にはアッシュの方が速さに優れており、幾つかの斬撃がシルフィーに掠る。
(浅いか)
ここで引く様な性格ではないと解っている為、アッシュは更に意識を集中させる。
(絶対に負けられない!!!!)
アラッドはシルフィーが落ち着いて判断し、動けていると思っていたが……心の中では絶対にアッシュに勝つという想いで燃え上がっていた。
身体強化以外のスキル、魔力も使い始めて二人の戦いは更に苛烈さを増す。
二人の母親であるエリアは相変わらず心配し続けているが……決して二人の戦いから目は逸らさない。
(シルフィーも最終的なアッシュの動きを読んで、割と重い一撃を入れてる。アッシュは当然の様にガードしてるけど……内に響いてはいるだろうな)
これはどっちが勝ってもおかしくない。
アラッドがそう思い始めた時……戦況がガラっと変わった。
「……まぐれじゃ、ないか」
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