二百四十八話 敢えての試合運び
「ッ!?」
シルフィーは自分が何をされたのか直ぐに解らず、一先ずその場から離れた。
そして数秒の間に何が起こったのかを思い返し……自分が何をされたのか、理解した。
(シルフィーも気付いたっぽいな。いやはや……ちょっと恐ろしいな)
アッシュの年齢は八歳。
まだまだ若いというか、幼い。
そんなアッシュが行った行動は……受け流しだった。
言葉通り、受け流す。
シルフィーが振るう豪剣を、アッシュは細剣という武器で受け流したのだ。
「……ッ!!!」
アッシュの動きに驚くも、引いていては勝てない。
それだけは確かであり、攻めない訳には行かない。
シルフィーは必死で動き、考え、攻め続ける。
「……」
そんなシルフィーの攻撃をアッシュは一つ一つ丁寧に捌き、躱し……そして最後は受け流した。
「ッ!!??」
シルフィーはもう一度驚いた。
今度はそういう技術をアッシュが持っていると頭に刻み込み、動いていた。
それにも拘わらず……自分の剣は、あっさりと受け流されてしまった。
(次で……終わりで良いかな)
アッシュはここまで自分が優位に戦いを進めていても、冷静な心に傲慢、優越、不遜が入り込むことはなく、終わりを見つめていた。
シルフィーがまだ負けを認めていないことは明白であり、必ず攻めてくる。
そんなアッシュの読み通り、シルフィーは勝つために攻めた。
しかし……今度は最初の一撃を受け流され、遂にその後の動きを行った。
その後の動きとは当然、止めを刺すこと。
「終わりだよ、シルフィー」
木製の大剣は下に流され、アッシュの剣先がシルフィーの喉元に突き付けられていた。
「そこまで。勝者はアッシュだ」
アラッドが決着、勝者を宣言したことで、勝負を観ていた兵士や騎士たちから拍手が送られた。
その拍手には……当然、悪意はない。
良く戦った。熱い戦いだった。二人ともまだまだこれから成長する。
そんな思いがあっての拍手。
だが、幾人かはアラッドと同様にアッシュの凄さに気付いていた。
「……約束は、守り、ます」
涙を流しながらそれだけ言うと、シルフィーはダッシュで訓練場から消えた。
「今は、行かない方が良いと思います」
「ッ、でも……」
「今行っても……多分、どの言葉もシルフィーを傷付けるだけですから」
親でもなく、指導者でもない。
だが……なんとなく、直感的に今ではないと思ってしまった。
「アッシュ、おめでとう」
「あ、はい。ありがとうございます」
シルフィーとの模擬戦に勝利したアッシュは、ほっと一安心した。
それぐらいの感情しか顔に出ておらず、喜びなどはない。
(淡々としてるな……いや、でも本当に凄い。あれをそんなに訓練してるところは見たことないし……センスがずば抜けてるとしか言いようがないな)
相手の攻撃を受け流す。
それは接近戦を行う者にとって、高等技術の一つ。
実戦で行った相手はまだまだ八歳の子供……そんなことは関係無い。
歳上であろうが、同年代であろうが……互いに譲れない何かを懸けての戦いで、受け流しを何度も成功させた。
「ったく、ちょっとは喜べよ」
「……でも、勝てると思ってたから」
勝てると思っていたから、別に喜ばない。
その感想に……アラッドと同じくアッシュの凄さに驚いていた者たちは、ゾワっとした。
「そ、そうか…………なぁ、アッシュ。一応訊くけど、初っ端から受け流さなかったのは、わざとか?」
「はい。その方が、シルフィーは言い訳出来ないと思ったので」
「なるほど、確かにその通りだ」
アッシュの言葉は決して間違っていない。
あの戦い方は、相手の心を折る戦い方とも言える。
事実、アッシュがそのつもりであれば、開幕速攻で勝負終わらせることが出来た。
それにもかかわらず、アッシュはシルフィーの全力を引き出してから、現実を突き付けた。
(あの訓練量で、ここまで辿り着くか……いやはや、恐ろしいぜ)
アラッドも十分に恐ろしい存在だが、アッシュはそのアラッドに恐ろしいと思わせた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます