二百三十五話 今は絶対に走れない
「遂に完成しましたね」
「おう……キャバリオン、完成だ!!!」
金属製の馬……の、下半身だけバージョン。
といった見た目のマジックアイテムが二人の目の前にあり、アラッドが錬金術を覚えた子供の頃からずっと造りたい思っていた、オリジナルのマジックアイテム。
そのマジックアイテムが今宵……ようやく完成した。
「さて……………とりあえず乗ってみるか」
「い、いきなりですか?」
「おう、そりゃ当然。今まで生きてきた中で、一番テンションが上がってる状態かもしれないんだ。このまま眠れる訳ないだろ」
「それはそうかもしれませんが」
自分の体は自分が一番良く解っている。
なんて言葉を使う者が偶にいるが、アラッドはその言葉を使う人間の気持ちが今、とても良く理解出来る。
(今寝ようとしても、ギンギンに目が覚めて絶対に寝れない)
ワクワクする気持ちを抑え苦切れず、ジャンプして前足部分の装着者が脚を入れる部分に着地。
サイズはある程度装着者に合わせられる効果が付与されており、きつ過ぎず緩過ぎず丁度良い。
そしていざ歩こう……と思った瞬間、倉庫内だと思い出し……チキって一回キャバリオンから降り、倉庫の外に出た。
「えっと、何故一度降りたのですか?」
「いや、だってほら……盛大にこけたら煩いだろ」
一度や二度こけたぐらいで凹むことはないが、それでも倉庫内で転べば音が反響して煩いのは間違いなかった。
「よっと」
もう一度キャバリオンを装着し……いざ、歩み出す。
「……っと、うぉ……と、いちいち止まらない方が良いか」
当然だが……キャバリオンを造った製作者とはいえ、速攻で駆け回ることは不可能。
何故なら、人間と馬の歩く、走る感覚は違う。
当然、アラッドは以前から馬の歩き方、走る時の脚の動きについて観察していた。
知識として頭に入って入るが、実際に行動して上手くいくかは別問題。
止まらず焦らず動けば、なんとか歩くのは及第点。
ただ、及第点という自覚はあるので、調子に乗って走り回ろうとは思わない。
「ふぅ~~、疲れた。全然走ってない……歩いてないのにな」
そう、走ってすらないな。
装着したことでアラッドの脚の意識は、四本脚と連動している。
なので運動量的には殆ど疲れることはないのだが、それでも転ばないように転ばないようにと慎重に動けば動くほど、神経が削れる。
「ガルシアも乗ってみるか?」
「い、いえ。私は大丈夫です」
「なんでだよ。脚のサイズ的には多分問題無いぞ。それに転んでもまだ試作品って感じだし、壊れても問題無い。また新しいのを直ぐに造るしな」
「……そ、それなら少しだけ」
少し遠慮気味のガルシアだったが、完成する前から気にはなっていた。
アラッドに付き合い、馬の走り方なども一緒に勉強していたので、ある程度の知識は頭に入っている。
「こ、これは……た、確かに止まらない方が、良いですね」
「だろ。下手に止まる……ていうか、ゆっくり動いたらそれはそれでバランス崩しそうになるんだよな。まっ、そこは慣れていくしかないよな」
ガルシアもなんとか歩くことには成功したが、恐怖心が勝って走ろうとは思えなかった。
「ふぅーー、これはかなり神経を削りますね」
「慣れない内はそうなるだろうな。でも、慣れたら長距離を少ない労働力で走れる……そこは魅力的だよな!!」
「そうですね。魔力の消費量も少ないので、その点に関してはとても魅力的です」
木々などが密集した場所、高低差がある場所では扱い辛いという難点はあるが、そこはアラッドも理解している。
(ある程度関節は動かせるし……本当に学んで慣れてかないとな)
テンションが再び上昇したアラッドはもう一度キャバリオンを装着し、訓練を行い……疲れたらガルシアと交代。
それを何度も続け、久しぶりに夜遅くに寝ることになった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます